セミナーレポート

医工を融合させた最先端の研究発表

「医」と「工」を知る高度人材の育成についても討論

2012/3/22

 高齢化社会への移行に伴い、将来起こりうる「医療のリソース不足」。そのような社会に備えるため医療・工学・ICTの技術を融合させることで、よりよい「医療」体制を目指す「医療ICT」に関して、横浜国立大学は平成14年度ごろより研究を重ねている。また、これらを融合させた分野を研究できる「医療と工学の2足の草鞋を履きこなす」人材の育成についても、協議が重ねられてきた。

 2012年3月2日、年度末に横浜国立大学が主催している「医療ICTシンポジウム」。4回目になる今回は、毎年行われている医工融合の成果とも言える最先端の研究発表ともに人材育成にもフォーカスを当てて様々な講演が行われた。

慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授の大西公平氏
慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授の大西公平氏

新技術の紹介


 医療ICT、医工融合として今回発表された研究は、工学、情報技術を医療と融合させることで、「医療系分野」で役立てるという研究が多い。


 例えば、「自宅に居ながら、少量の唾液や血液などから病気の兆候を検出できる在宅医療診断チップの『センサー』」や「福祉・介護の現場で介助者の負担を軽減したり、障害者・高齢者の動きをサポートするためのパワーアシスト機器への設置に適した『モータ』」など、いずれも「工学」分野からの研究発表であり、工学研究者が医療分野での開発を行ったという体裁が近い。


 一方で工学分野へのフィードバックもある。慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授の大西公平氏は、遠隔操作においても触覚を伝えることができる「鉗子」ロボットについての研究発表を行った。「鉗子」とは、医療現場、主に手術などで患部などを掴んだりするための道具のことである。


 すでに通信での伝達が実現している「視覚」や「聴覚」と比較して、「触覚」は情報技術によるやりとりが非常に難しい。というのも、視覚や聴覚はモニターやスピーカーを通して一方的に情報を伝えれば済むが、触覚の場合、触ったことに対する反作用が存在し、さらに反作用を感触として受け止めるという「双方向性」が求められるからだ。


 触覚に関する研究は「ハプティクス」と呼ばれ様々な研究がなされているにも関わらず、現在のロボット工学において、まだ実現していない。大西氏は「鉗子ロボットの研究で可能になった触覚を伝送する技術は、幅広く応用することができる」と話し、工学へのフィードバックの可能性を示唆した。

河野隆二教授。同氏はシンポジウムを主催しているグローバルCOEプログラムのリーダーでもある   会場横では、医工融合に関するポスターセッションが行われ、関係者が講演の合間を縫って熱心に話を聞いていた
河野隆二教授。同氏はシンポジウムを主催しているグローバルCOEプログラムのリーダーでもある。   会場横では、医工融合に関するポスターセッションが行われ、関係者が講演の合間を縫って熱心に話を聞いていた

医工融合を担う人材の育成


 シンポジウムの最後には、「医工融合を開拓・牽引する人材育成」と題されたパネルディスカッションが行われた。医学・工学を融合させた研究を進めるためには、双方に通じた人材が必要になる。そのため横浜国立大学を中心に「医工融合」への取り組みを積極的に行っている機関は、医学・工学の学生がそれぞれの現場を見る交流から始まり、双方の博士号を持つ「ダブルディグリー(DD)」の育成プログラムなど、人材育成にも力を入れてきた。


 しかし、実際には医学・工学ともに奥が深い学問であり、それを双方とも極めるとなれば容易なことではない。さらに2分野が融合した分野を研究する人材には、ただ単純に博士課程を2つ卒業するだけではなく、研究を率いていくリーダーシップも要求される。「量産するようなものではなく、特に上を目指す数少ない人材」と、横浜国立大学教授の河野隆二氏は人物像について話している。


 横浜市立大学大学院 医学研究科教授の後藤隆久氏は「日本では医者になったら臨床医で大抵終わってしまう」とキャリアの閉塞性を指摘した。さらに「先日、日本が輸入超過となった赤字額と、日本が輸入している医療機器の価格はほぼ同額」と切り出し、日本において医工融合の最たるものである「医療機器開発」の遅れを示唆した。


 米国では医者になったあとに「医療機器を作るメーカーに就職」「医療に関する教育教材を作る」という幅広いキャリアパスがあり「日本とシステムが極度に異なっている」(後藤氏)と話す。さらに同氏は「海外との分野横断で見えてくるものがある。医学系ならば海外に一度は出る必要があるだろう」と、医工融合を研究する人材が見聞を広げる必要性も付け加えた。


 2009年、2011年にも同シンポジウムは取材しているが、今年のシンポジウムでは特に人材の育成について具体的な構想・目標や課題が浮き彫りになってきたように感じる。日本における医療分野の問題を解決するだけではなく、新産業の創出という可能性も出てきた「医工融合」。1年後の進展にまた期待したい。

(井上宇紀)

【セミナーデータ】

イベント名
:平成23年度医療ICTシンポジウム 医工融合イノベーションとリーダー・パイオニア人材
主催   
:横浜国立大学 グローバルCOEプログラム「情報通信による医工融合イノベーション創生」
  未来情報通信医療社会基盤センター
開催日  
:2012年3月2日
開催場所 
:はまぎんホール ヴィアマーレ(神奈川県横浜市)

【関連カテゴリ】

IT政策