セミナーレポート

求められる博士課程の「質」向上

米国の識者が来日し、現状について講演

2012/3/15

 修士以降の高等教育・研究を行う「北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)」。JAISTの中でも特に大学院教育の質改善・保証などに取り組んでいる大学院教育イニシアティブセンターは、2月27日に東京・品川インターシティ内にあるJAIST東京サテライトで「大学院教育イニシアティブセンター グローバルセミナー」を行った。

アメリカ西部地区基準協会 ラルフ・ウォルフ氏
アメリカ西部地区基準協会 
ラルフ・ウォルフ氏

博士課程の外部機関からの評価


 JAIST大学院教育イニシアティブセンターは質の高い教育や研究、博士号の客観的な基準策定など、より優秀な人材を輩出するための取り組みを進めてきた。今回のセミナーはアメリカの高等教育に関わっている研究者を招待し、アメリカの博士課程教育における課題や、その解決法などについて様々な議論がなされた。


 アメリカ西部地区基準協会理事長のラルフ・ウォルフ氏は、博士課程の質保証の重要性と現状について講演した。博士課程教育は「最先端」の高等教育であり、アメリカでは外部評価機構によって博士課程の「質」を評価している。「5~8年に1回はカリキュラムや、論文もサンプリングして外部機関から評価をしてもらう必要ある」(ウォルフ氏)と述べているように、大学は外からの評価を重要視している。近年は多様化の一途をたどり、能力的にはグローバルな教育が求められるようになり、教育における課題が増えてきた。


 そのような現状に応じるように、多様な博士課程が大学にはあるが、これらの1つ1つについての「質」保障をしなくてはいけない。博士課程の質は外部機関が下す大学評価を決するからだ。


 例えば、博士課程で学んだ学生が社会に出た際に、どのような成果を出したかは、大学教育プログラムの成果とも言える。成果を出せるような人材を輩出するには、博士課程の教育には、幅広い視点や専門分野における深みも双方求められるため、「これこれ、こういう人材を育成する」という目標に向けて「カリキュラムとのすり合わせが必要になってくる」とウォルフ氏は話している。


 大学における教員・教授などの指導者と、博士号の教育を変えていく必要がある。近年は、博士課程を教える教員が「何をしたらよいのか」についての様々な文献も出てきており注目度が高いことがうかがえる。ウォルフ氏は「教育プログラムの評判は世界レベルのランキングを作るなど、外部の評価を入れることが大学の質を高めるためにも重要になってくる」とした。

スタンフォード大学 クリス・ゴールディ氏   北陸先端科学技術大学院大学 浅野哲夫氏
スタンフォード大学 クリス・ゴールディ氏   北陸先端科学技術大学院大学 
浅野哲夫氏

多様性の確保


 スタンフォード大学の教育に関わっているスタンフォード大学大学院教育担当准副学長のクリス・ゴールディ氏は、21世紀の博士課程教育における考えを述べた。同氏は「アメリカの教育の質は高いがそれでも課題はたくさん存在する。継続的な改善が常に行われている」と話す。


 アメリカでは、400の大学から毎年5万もの博士号が発行されている。日本のように文部科学省のないアメリカでは分権化が進み、最先端の技術を欲している複数の機関が各々の目的のために研究室にコンタクトをとってくる。そのため、コールディ氏は新しいアイデアを、新しい視点を獲得していくことを重要視。現在の課題をいくつか挙げ、それらについて現状を説明する中で、表現を変えながら「多様性」について主張した。


 例えば「リサーチ能力」を高めるために各学部の敷居を低くして、「複数の教諭に指導される、あるいは別の学部に行って授業を受けられる環境を作るべき」と話す。日本の大学においても研究室が、となりの研究室のことを知らないいわゆる「タコつぼ化」は課題としてしばしば挙げられる。一方で、新しいイノベーションを生み出すためには多角的な視点も必須になる。ゴールディ氏は「例えば生物分野の人が機械工学も学び、別の分野のマスターも得られるような勉強環境が必要になるかもしれない」とした。


 また、ゴールディ氏はさらに広い範囲での「多様性の担保」についても言及。「アメリカ生まれの大学院生の多様性」は「アメリカ全体の多様性よりも低い」、すなわち「中産階級以上」「白人男性」の大学院生が多くなっている現状を問題視した。


 ゴールディ氏は「パイプラインの問題があると思っている」と話し、小学校や中学校にさかのぼって理数系を勉強させたり、あるいは一旦大学院に入ってくれたら定着してもらうために「少数派の学生を支援するようなスタッフが必要」と訴えた。


 講演の最後にはJAIST大学院教育イニシアティブセンター長の浅野哲夫氏が登壇。現在、日本において大学が博士課程を与える要件を満たしている、つまり博士号を与えられるかどうかについては文科省が許可を出すが、外部機関による「カリキュラムの評価」というものは存在しない。そのため「これまで主観的に行っていた評価を、客観的な評価ができるようにしたい」と話した。


 冒頭でウォルフ氏は、博士課程の質が大学の評価を決めるという趣旨の話をしていた。しかし、逆から見れば博士課程の質、ひいては大学の質が「国の質を決める」とも言える。特に資源のない日本において、教育の質を高めることは非常に重要である。米国の制度の良い点、あるいは反省点を踏まえて、日本の教育へフィードバックさせることで、質が向上に期待したい。

(井上宇紀)

【セミナーデータ】

イベント名
:大学院教育イニシアティブセンター グローバルセミナー
主催   
:北陸先端科学技術大学院大学大学院教育イニシアティブセンター
開催日  
:2012年2月27日
開催場所 
:JAIST東京サテライト(東京都品川区)

【関連カテゴリ】

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