セミナーレポート

電子ジャーナル・バックファイルの基盤整備

学術情報流通の改革を目指して議論

2012/3/1

 国立大学図書館協会(JANUL)は2012年2月7日、国立情報学研究所(NII)との共催で、シンポジウム「電子ジャーナル・コンソーシアムとバックファイルの基盤整備」を開催した。国内の大学図書館関係者が集まり、ヨーロッパで電子ジャーナルの整備、大手出版社との交渉を行っているコンソーシアム関係者を招いて、活発なやりとりが行われた。

電子ジャーナルに関する活発なやりとりが行われた
電子ジャーナルに関する活発なやりとりが行われた

電子ジャーナルとは


 電子ジャーナル(オンラインジャーナル)とは、主に欧米の出版社が刊行する学術雑誌が電子化されたもの。多くの場合、出版社のサイトから提供され、購読料が必要となる。研究者の所属する大学や企業が購読するケースが一般的だ。


 電子ジャーナルは大学等の研究者に普及してからまだ間もないが、文献へのアクセスが容易になるなど研究者の研究環境を大きく変化させている。研究者は文献を調べに行くのに図書館までわざわざ足を運ぶ回数が減るなど、格段に利便性が向上した。しかし電子ジャーナルは冊子体とは異なり、予算がなくなりキャンセルしたら手元に残らないというリスクも存在する。電子ジャーナルの価格は年々高騰を続けており、大学によっては購読の維持が難しくなっているケースも増えている。


 そのため日本では、複数の大学図書館がコンソーシアムを形成し、主要な出版社との間の交渉を通じて、大学にとって可能な限り有利な契約条件を獲得したり、アーカイブとして電子ジャーナルのバックファイル*1を確保するための努力を続けている。


JUSTICEの取り組み


 筑波大学附属図書館の副館長で、大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)運営委員会委員長の関川雅彦氏は、電子ジャーナルとJUSTICEの取り組みに関して講演を行った。 JUSTICEは、NIIと大学図書館との連携・協力を推進する協定の下に設立されたコンソーシアムである。500以上の国立、公立私立の大学図書館から構成される世界でも有数の規模のコンソーシアムといえる。バックファイルを含む電子ジャーナルの確保と恒久的なアクセス保証を重要な責務としている。


 JUSTICEは、日本の学術情報基盤の整備に貢献することを使命としているが、まずは喫緊の課題として、電子ジャーナルを含む電子リソース*2の共同購入のための出版社交渉を強化することに重点を置いている。JUSTICEは出版社と年間124回もの交渉を重ね、多くの出版社との間で統一合意に達することができたと説明している。


 関川氏は電子ジャーナルのバックファイルを「学術情報基盤のセーフティネット」であると位置づけている。つまり、バックファイルへのアクセス環境を整備することで、日本において過去の電子リソースへの平等なアクセスを確保するとともに、ビッグディール*3からの離脱の影響を最小限に抑えることを目指している。


 関川氏は今後の整備に向けて、検索の網羅性と情報入手の効率化を指摘、教育研究活動を活性化する基盤として、電子ジャーナルのバックファイル確保の重要性を強調した。

筑波大学附属図書館・関川雅彦氏   クープランのアンドレ・ダジー氏
筑波大学附属図書館・関川雅彦氏   クープランのアンドレ・ダジー氏

フランスのコンソーシアムの事例


 シンポジウムではフランスのコンソーシアムCouperin(クープラン)のアンドレ・ダジー氏も講演した。クープランは、日本におけるJUSTICEのように、フランスの大学図書館や研究所が共同で電子ジャーナルの整備・大手出版社との交渉を行うコンソーシアムだ。ダジー氏は「コンソーシアムのメンバー(大学など)にとって、できるだけ有利な条件を引き出すようエルゼビア(オランダの大手学術出版社)などの出版社と交渉している」と説明。さらに適正な価格で交渉することに細心の注意を払っていることを付け加えた。


 一方、NIIの安達淳氏は「学問分野ごとにバックファイルに対するニーズが違うので、バックファイルをどの程度、どんなタイトルでどれくらい持っておくべきか吟味が必要」と発言。また、ドイツ技術情報図書館のマルクス・ブラマー氏は、ドイツでの例として、出版社との交渉で条件の合意が得られず、時間を置いたところ、そのコンテンツがオープンアクセス*4に至ったことを紹介し、オープンアクセスの可能性、その有用性も視野に入れるべきだとした。


 学術情報をよりよく活用するためにも、電子ジャーナルのバックファイルの整備は必要不可欠だ。効率的に研究者に有効に活用してもらうためにも、JUSTICEの活動を見守っていきたい。

(山下雄太郎)

注釈

*1:バックファイル
電子ジャーナルの過去のバックナンバー。出版社と契約するとき、年間契約で毎年更新することでアクセスできる刊行年の範囲をカレントファイルと呼ぶものに対して、それ以前の刊行年の範囲のものをバックファイルと呼ぶ。出版社によってその範囲は異なるが、一度料金を支払えば永久に閲覧可能となることが多い。

*2:電子リソース
ここでは学術資料を電子化したものを指す。図書館で扱われているものは、電子ジャーナルだけではなく電子ブックもあれば、原資料を電子化したものもある。

*3:ビッグディール
雑誌ごとに個別に購読するのではなく、ある出版社の刊行する全ての電子ジャーナルにアクセスできる契約モデルのこと。それまでの支払金額にわずかな金額を上乗せすることにより、アクセス可能な雑誌種類数を飛躍的に拡大することができる。しかし、年々価格が高騰することにより、大学図書館など契約する側を悩ませる問題となっている。

*4:オープンアクセス
学術雑誌等のコンテンツを無料で閲覧できることで、研究者からも大学図書館からも要望がある。大学図書館が出版社に購読料を支払う代わりに、論文を投稿する研究者が料金を支払う「著者支払モデル」のほか、研究者自らが機関リポジトリと呼ばれる所属大学等のサーバに自著論文を登録して無料で公開することもある。

【セミナーデータ】

イベント名
:学術情報流通の改革を目指して
  ~電子ジャーナル・コンソーシアムとバックファイルの基盤整備~
主催   
:国立大学図書館協会(共催:国立情報学研究所 後援:大学図書館コンソーシアム連合)
開催日  
:2012年2月7日
開催場所 
:東京大学生産技術研究所(東京都目黒区)

【関連カテゴリ】

IT政策その他