セミナーレポート

スパコンが「スーパー」である理由

その性能についてわかりやすく解説した公開講座

2012/2/20

 京都大学は1月27日、東京都港区品川にある京都大学東京オフィスで「スパコンは何がスーパーなのか」と題された公開講座を行った。京都大学は、付属する研究所の最先端技術を広く知ってもらうため、これまでに何度か公開講座を開いており、幅広い層が参加している。今回は、そんな研究所の1つ「学術情報メディアセンター」のセンター長・中島浩教授が教鞭をとり、スパコンの性能と歴史についてかみ砕いた解説した。

広く知らしめる目的の講義なだけに、専門家ではなく一般の参加者が目立った
広く知らしめる目的の講義なだけに、専門家ではなく一般の参加者が目立った

スパコンの処理速度が高い理由


 まずはスパコンが処理速度を上げていく過程から講義は始まった。中島氏は、どれだけの計算を単位時間で処理できるかというスパコンの性能指標を、スキー場のリフトの輸送能力を例に出して解説を進めた。


 リフトの輸送能力を上げるためには、まずリフトの速度を上げるという方法が考えられる。これは処理速度でいうと「周波数を上げる」という行為に当たる。周波数は1980年頃から年1.35倍程度スピードで伸びてきていた。しかし2000年代になるとCPU回路の密度が極端に高くなり、CPUが電子レンジ並に加熱されてしまうという問題を抱えてしまう。


 2005年以降、周波数の伸びは完全に頭打ちになり、ほかの処理速度を上げる手法が脚光を浴びるようになる。リフトでいう輸送力を上げるために「座席数やリフトの台数を増やすという方法が取られるようになった」(中島氏)。座席数を増やすのは加減算や乗算の並列演算を行う「スーパースカラー」、リフトの台数を増やすのは並列計算を行う「マルチコア」と呼ばれる技術にあたる。


 並列演算とは、同じ式の中で同時に計算が可能な加減算や乗算を、並行して処理すること。例えば「2X+3Y+5Z=23」という式の中でXの係数を1にすることを考える。一般的には等号の左右に1/2を掛ける方法が取られるが、この際X、Y、Z及び等号の右と4か所に1/2を掛ける必要が出てくる。「スーパースカラー」はこの4つの乗算を同時に処理することで処理速度をあげている。


 「マルチコア」が行う並列計算はもっと単純で、CPUを複数備えることで全く異なる式を同時並行で計算する。複数あるCPUは、共有メモリを介することで計算結果をやり取りして連携を図っている。これらの技術は、現在の家庭用PCではすでに当たり前のように使われているものだ。

「京」の性能を生かすために並列計算をさせるプログラミング技術も重要と話す
「京」の性能を生かすために並列計算をさせるプログラミング技術も重要と話す

スパコンの利用と未来


 極大化した、共有メモリで連携が取れているマルチコアのCPUをさらにいくつも並べ、光ケーブルで計算結果をやり取りする「分散メモリ」といわれる技術が台頭する。俗に言う「スカラーマシン」と呼ばれるものだが、現在「京」を始めとする世界中のスパコンの主流となっている。


 「京」は8つの並列演算ができるCPUを8つ集めて、並列計算ができる1つの「マルチコアプロセッサ」としたものを、さらに8万8128個連携させている。これにより「京」は理論上、一般的なPCの180万倍ほどの処理速度を誇る。


 スパコンは、こうして複数のコアが連携して同時並行的に複数の計算をこなすことで、全体の処理速度を上げている。そのため「地球全体を1キロ四方のマス目にわけて地球の天候を予測する」「自動車を1ミリ四方にわけて空力の計算をする」というような超大量のデータを処理する計算を得意としている。


 一方で計算結果を求め、その結果を次の式に代入するという計算は苦手だ。同時並行的に処理を行えないため、パフォーマンスを生かせないのだ。そのため中島氏は「スパコンの性能を生かせるかは使い方次第」と話している。


 今後、スパコンの性能はさらに上がっていくのだろうか。スパコンを開発する意義について中島氏は、「その後のPC性能を向上させるための研究開発」であり「小型・安価なコンピュータ実現施術の源泉」と説明する。現在、生産されているスマートフォンやパソコンの処理性能は20年前のスパコンよりも高くなっている。同じように20年後に現在のスパコンを個人所有レベルのPCに落とし込むためには、フロンティアとなる超高性能コンピュータが開発されなくては実現しない、ということだ。


 「京」の名前は知られていても、その性能や意義についてはまだ広くは知られていない。こうした入門的な講義を多くの方が受け、理解を深めるきっかけになれば良いと感じさせられた。

(井上宇紀)

【セミナーデータ】

イベント名
:第21 回品川セミナー「スパコンは何がスーパーなのか」
主催   
:京都大学
開催日  
:2012年2月3日
開催場所 
:京都大学東京オフィス(東京都港区)

【関連カテゴリ】

IT政策