セミナーレポート

JAXAが「きぼう」の利用成果を報告

宇宙放射線に関する実験結果を発表

2011/10/20

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月28日、『よくわかる「きぼう」利用成果ミニシンポジウム~宇宙放射線と生命の関わりを知ろう~』を開催した。「きぼう」は日米露など15カ国が参加する国際宇宙ステーション(ISS)にある日本初の有人実験施設。ここで行った宇宙放射線に関する実験について講演が行われた。

「きぼう」日本実験棟で研究を行う研究者が発表
「きぼう」日本実験棟で研究を行う研究者が発表

「きぼう」で行われる様々な実験


 「きぼう」は2009年7月に完成したISSで一番大きな実験棟で、生命科学実験を行う設備があり、ここで細胞を育てたりすることができる。物質科学の実験設備もあり、流体の観察やタンパク質の結晶ができる様子を観察することができる。


 奈良県立医科大学特任教授の大西武雄氏はJAXAと協力して、がん抑制遺伝子の1つである「p53」に放射性適応応答が見られるかの判定を行った。「p53」を持つヒトリンパ球を「きぼう」内にある-80℃の実験用の冷凍庫「ISSフリ-ザー」に133日間冷凍保存。地上に回収後、放射線を地上で照討、放射線適応応答があるかどうかを凍結サンプルで確認した。その結果、放射線被爆の記憶が細胞に残っており、ISS内での宇宙放射線の被爆状況を確認することができたという。


 大西氏はすでに、宇宙放射線で生じる細胞の核内でのDNA二本鎖切断損傷を確認。宇宙放射線による遺伝子損傷を世界で初めて可視化することに成功している。同氏は「人類がこれから火星への到達をも目指すうえで、今後も宇宙放射線の影響を確認することは重要」と話している。


ミトコンドリアやカイコの卵を使った実験


 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科教授の馬嶋秀行氏は、ミトコンドリアの宇宙での変化について説明。同氏はミトコンドリアが細胞の新陳代謝のために自発的に行う死である「アポトーシス」について触れ、ミトコンドリア自身が活性酸素を発生させる事によって、老化や神経障害などを引き起こすことが一般的に周知されていることなどを紹介した。


 こうした中、同氏が研究チームを組み、ヒト神経細胞を計42日間宇宙で培養させた結果、ミトコンドリア活性酸素を消去するMnSOD活性が大きくなった。馬嶋氏は「宇宙群では増殖が速くなり、細胞内活性酸素発生が大きくなった。そのため、宇宙では細胞が大きく活性化されることが明らかになった」と結論づけた。

奈良県立医科大学特任教授・大西武雄氏   鹿児島大学大学院教授・馬嶋秀行氏
奈良県立医科大学特任教授・大西武雄氏   鹿児島大学大学院教授・馬嶋秀行氏

 京都工芸繊維大学名誉教授の古澤壽治氏は、カイコの卵をつかった実験を紹介した。ISSに、産卵後20時間ころから胚の発育停止が行われた、いわゆる“休眠状態”のカイコの卵を約3カ月搭載させた上で、地上でこの卵からふ化した幼虫を人工飼育。突然変異が発生する頻度と宇宙放射線量について検討を行った。この搭載した卵からふ化した幼虫からは体細胞変異の発現を見つけることはできなかったが、これらの雌雄の蛾が交配することによって得られたふ化幼虫を飼育したところ、突然変異がおこった幼虫が発見された。この結果、「宇宙放射線によって、突然変異が生じることが確認された」と古澤氏は説明している。


放射線と人間のかかわり

                  

 一方、東京大学医学部附属病院放射線科の准教授である中川恵一氏は放射線と人間とのかかわりについて講演。「我々生命は過去38億年間、ずっと放射線のなかで進化を遂げてきた」とし、西日本の方が大地からの放射線量が高いことや、岐阜県飛騨市の神岡鉱山などの鉱山でも放射線量が高いなど、日本でも地理によって放射線量が違うことなどについて解説した。他にも、直腸がんの術前照射のように手術の前に放射線を人体にあてることでがん自体を小さくし手術をしやすくする、人間に対して放射線を使うことの有用性についても触れた。


 「きぼう」日本実験棟ができたことによって、日本は独自で様々な実験を行うことができるようになった。結果、宇宙放射線の影響など、今まで未知だったことが明らかになっている。今後も「きぼう」の船内における実験装置を用いて、後世に残るような研究を行ってほしい。

(山下雄太郎)

【セミナーデータ】

イベント名
:『よくわかる「きぼう」利用成果ミニシンポジウム ~宇宙放射線と生命の関わりを知ろう~』
主催   
:宇宙航空研究開発機構(JAXA)
開催日  
:2011年9月28日
開催場所 
:学士会館(東京都千代田区)

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