セミナーレポート

イノベーション・ジャパン2011が開催

大学などの研究成果を一堂に集め、産学マッチングの促進を図る

2011/10/17

 2011年9月21日から2日間、東京都千代田区の東京国際フォーラムで、「イノベーション・ジャパン2011―大学見本市」が開催された。大学などの「こんなものを提供したい」という研究シーズと、産業界の「こんなものが欲しい」という技術ニーズを結びつけるマッチングイベントだ。会場には、全国の大学などから研究者が集まり、成果を展示するブースが300ほども並んだ。また、プレゼンテーションや有識者によるセミナーなどが行われ、大勢の人で賑わった。

スマートフォンで高性能な3DCG


 研究内容の展示は「装置・デバイス」「ライフサイエンス」など10の分野で行われ、それぞれのブースでは、研究者たちが入場者にパネルや資料を示し、熱心に研究成果を披露していた。


 このうち、スマートフォンを使ったデモンストレーションで多くの人の興味を引いていたのは、長野大学企業情報学部の「スマートフォン用の3DCG再現システム」研究チームだ。高度な3DCGを作るには高性能なハードウェアが必要になるが、それをスマートフォンという制約の多いハードウェアで実現しようとする試みである。見る角度や照明の環境に合わせて刻一刻と変化する物体の光沢や色を忠実に再現できることが、技術の特徴だという。


 実際に人の顔面を再現してもらうと、微妙な凹凸や質感が見事に表現されていて驚いた。手のひらの中に人面があるようで、いっそ不気味なほどの再現性だ。しかし、同じものをPCで再現すると毛穴やしわなどがより精緻に表現されており、説明してくれた学生は「PCレベルまで再現性を引き上げることが今後の課題の1つ」と語った。産業界での活用としては、ゲームやエンターテイメントの分野での期待が高いほか、電子パンフレットなどへの応用も考えられるそうだ。

スマートフォンで3DCGを楽しめる   惑星探査ロボットもお目見えした
スマートフォンで3DCGを楽しめる   惑星探査ロボットもお目見えした

惑星探査ロボットを披露


 また、中央大学理工学部の國井研究室のブースでは、JAXA(宇宙航空開発研究機構)などと共同で開発した惑星探査ロボットが披露された。國井研究室が担当しているのはソフト面で、ロボットが激しい凹凸など過酷な環境の中で活動するための技術や、遠隔地のロボットと人間が協力するための技術などを研究している。例えば環境計測。センサーによって3次元計測を行い、様々な環境情報を取得する。それらのデータを融合して地図を生成し、周辺の環境を認識したり、復路での走行に利用したりするという。また、複数のアルゴリズムによって経路計画を立て、ロボット自身が走行に適した経路を決めるようなシステムなども研究されている。


 惑星探査ロボットのこうした技術は、地球上で災害が起きた時にも応用できるという。がれきが散乱した被災地でも活動でき、人間が入り込めない場所に出向いて情報を収集することができるからだ。遥か遠くの星で走る姿にも胸躍るが、災害時の活躍にも期待したい。


業際イノベーションと新興国地域との連携


 一方、会場では有識者によるセミナーも行われた。このうちトヨタIT開発センター 代表取締役会長の井上友二氏は「グローバル・ネットワーク時代の新たな挑戦」と題して講演。日本が技術力で勝りながら事業で負けるという状況を打破するためには、「業際イノベーション」と「新興国地域との連携」が重要になると語った。

セミナー会場も盛況。参加者はメモを取りつつ話に聞き入っていた
セミナー会場も盛況。参加者はメモを取りつつ話に聞き入っていた

 「業際」とは異なる事業分野にまたがること。つまり、従来の枠組みを超えた異業種間の協力・連携、融合化などを指す。井上氏は、次世代ITS(高度道路交通システム)を例に、自動車業界と通信業界の業際の必要性を説き、震災に強い新しいアーキテクチャ(設計思想)のネットワークを実現すべきと語った。そして、車そのものについても情報通信技術から俯瞰すると、24時間ネットワークにつながることによって、企業の業務フロントや動く電力・通信ハブなどとして、新しい利用法と価値が創造できると説明した。


 もう1つの戦略である新興国地域との連携に関しては、まず新興国のICTマーケットの変化について説明。マーケットの量的な規模は、この10年で先進国の10倍以上にも膨らんでいるが、同じものでも価格が10分の1なので、販売額は先進国とせいぜい同等だという。また、新興国の技術について「日本のようにキレイに作ることは出来ないが、機能の心臓部にあたる部分を、既製品を組み合わせるなどして工夫して作る。しかも10分の1以下の値段で作ってしまう」と語った。それらを踏まえると、新興国でのビジネスモデルとして、これまでのような「単品の物売り」ではもうダメなのだという。今後は、設計や構築のみならず、運用の代行や人材育成なども含めた「総合的なソリューションの開発・構築・提供」を展開していくべきだと説明した。


 最後に井上氏は、「東日本大震災から復興する中で、日本の新たな競争力・強調力を生み出す振興策を考えるべきだ。そして東南アジアや南米など頻災害国と協業しながらやっていくべきだ」と呼び掛けた。


 社会の仕組みを変えるイノベーションを起こすことは容易ではない。しかし、地道な「研究」を「ビジネス」に結びつけることが出来れば、そこにまったく新しい何かが立ち現れるのかもしれない。この催しは去年までの7回で、共同研究726件、ライセンス契約125件の契機となるなど、産学マッチングの実績を上げてきた。東日本大震災で打撃を受けた日本社会が産業競争力を高めるためにも、今後ますます産学連携は重要性を増してくる。今回もこの催しが「幸せな出会いの場」になったことを期待したい。

(井上恭子)

【セミナーデータ】

イベント名
:「イノベーション・ジャパン2011―大学見本市」
主催   
:科学技術振興機構 新エネルギー・産業技術総合開発機構
開催日  
:2011年9月21日、22日
開催場所 
:東京国際フォーラム(東京都千代田区)

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