セミナーレポート

サービス産業の現場で活用される
サービス工学の手法

産総研が取り組む生産性向上のための仕組み

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2011/10/3

 産業総合研究所(産総研)サービス工学研究センターは2011年9月6日、東京都江東区青海の産総研臨海副都心センターで、シンポジウム「サービス工学基盤技術の導入と普及への戦略」を行った。

 サービス工学とはサービスに関わる人を“モデル化”し、顧客視点でのサービス生産性向上を実現する「サービスに関わる人のはたらきに着目した研究」のことだ。モニターの選定や行動記録の分析などを通して、サービスのPDCAサイクルを正しくまわすことがサービス工学の目的である。

集まった参加者の多さから関心の高さがうかがえた
集まった参加者の多さから関心の高さがうかがえた

サービス工学を実践する手法


 産総研サービス工学研究センターはこれまでに経済産業省の委託を受けて、サービス産業の生産性向上・イノベーション促進のための基盤技術を科学と工学の方法論に基づいて整備するために、研究開発を含めた幅広い取り組みを行ってきた。もともと地域の生活と経済を支えるサービス産業は日本経済の約7割を占める産業。その生産性を向上させるイノベーションの促進は経済を持続発展させるための重要課題となっている。


 同センターのセンター長を務める持丸正明氏は、「顧客がいて、サービスの提供者がいる。このサービス提供者にITシステムを提供することによって、より効率のよい、あるいはレベルの高いシステムを顧客に提供することができる」とサービス工学の重要性について語った。


城崎温泉での取り組み


 続いて、同センターの研究員や改善に取り組んだ当事者たちが、具体的な事例を発表。このうち研究員の山本吉伸氏は、兵庫県の城崎温泉に導入されている手法について説明した。


 城崎温泉は「外湯巡り」で有名な兵庫県の老舗温泉地。旅館は約80軒程度でほとんどが家族経営だ。しかも1軒1軒の規模が小さいため、街全体で売り上げを確保しようという意識が高い。しかし他の温泉地と同様、城崎温泉でもこれまでほとんど客観的なデータはとられてこなかった。そこで導入されたのが「外湯巡りができる外湯券の電子化」だ。


 顧客がすでに持っているPASMOなどのカードの製造番号を読み取って、顧客自身にID番号を発行。山本氏は、「これにより、どこの施設にどれだけの人が、どれくらいの時間に滞在しているかPOS*1データを収集することで、街中の人の行動を可視化できる」と説明した。このデータに基づき、改善が必要な地域や時間帯の抽出を行うことにより、的確な施策改善が可能になったという。


 また、城崎温泉で旅館を営む高宮浩之氏は、「お客様が外湯巡りをするときに現金をもって出かけるのは面倒だという意見が以前からあった。さらにスナックなどの飲み代を後から自分の宿で払う『つけ払い』のシステムを街全体でできないかという意見があった」と説明。そこで、Felica*2の技術を利用した簡便な地域クレジット「ゆめぱ」を導入。顧客は自分のFelicaを登録してデポジットとすることで、温泉地の買い物に利用し、現金所持の煩雑さを解消できるようになった。


 その他、温泉旅館の仲居さんの行動分析に位置センサーを活用している。帯のなかに仕込んでもらったセンサーによって、仲居さんがどのように行動したかを把握し、無駄な経路を割り出すのだ。これらのデータは現在、旅館の経営改善に活用されている。

産総研工学研究センター・持丸正明センター長   産総研工学研究センター・竹中毅氏
産総研工学研究センター・
持丸正明センター長
  産総研工学研究センター・竹中毅氏

がんこ寿司での手法


 このようにPOSデータを収集・分析することで、顧客の需要予測を行い、経営改善につなげていくことができる。


 がんこ寿司を運営するがんこフードサービス株式会社も産総研と協力して顧客の需要予測を行っている。大規模モデリングを研究する竹中毅氏はサービス工学の手法を用いた需要予測について解説。竹中氏は「どんなサービスの現場でも、従業員が顧客を全員知っているとは限らない。したがってサービスを提供する現場では様々な指標が採取することが重要」と指摘している。そのため、商品価値やサービスのカテゴリ、ビジネスに関してどういう環境要因が働いているのか、震災後の影響などの社会的な要因、地理的な要因、商圏の特性、外部環境要因など分析も子細に行っていく。


 がんこ寿司の場合も、例えば“休日”を「連休中の日曜日」や「連休中の祝日」という細かい特性をパラメータで入れることで分析の精度が上がるという。他にも、店舗Aと店舗Bでは客の滞在人数をみたときに人数が多い時間帯が全く違う。来店頻度や料理に対する満足度も、一人で来る時と家族や友人を連れてくる時では明らかに違う。このように何通りもの子細なデータを収集・分析して可視化することで、従業員のシフトなどの改善につなげることができる。


 こうした取り組みに対して、がんこフードサービス専務取締役の新村猛氏は「飲食産業はものづくり(=料理)をする現場であると同時にサービスをする二次産業と三次産業の間のもの」と説明。そのうえで、「サービスを提供していくうえでのプロセスを改善しない限り、顧客満足度にはつながらない」とし、「ホスピタリティ産業として我々はいかにお客様によいサービスを提供するかを念頭に置いて産総研と協力している」と話した。


 サービス工学自体の知名度はまだ低く、現場への導入事例はまだまだ少ない。しかし、ITを駆使したその分析手法は非常に正確かつ汎用的だ。参加者は大手製造業の関係者が多く、席は満席で関心の高さがうかがえた。製造業の現場でサービス工学の導入事例を増やすことで、知名度の向上とサービス産業の充実を期待したい。

(山下雄太郎)

注釈

*1 :POS
販売時点管理(Point of sale system)。物品販売の売上実績を単品単位で集計すること。他データと連携した分析・活用が容易になる。

*2: Felica
ソニーの非接触ICカード技術方式。かざすだけで高速データ送受信ができる。

【セミナーデータ】

イベント名
:「サービス工学基盤技術導入と普及への戦略」
主催   
:産業技術総合研究所(産総研)サービス工学研究センター
開催日  
:2011年9月6日
開催場所 
:産総研 臨海副都心センター(東京都江東区)

【関連カテゴリ】

経営改善