セミナーレポート

気候変動に関するシンポジウム

「地球シミュレータ」を用いた最先端の研究成果を発表

このエントリーをはてなブックマークに追加

2011/9/12

 2011年8月22日、海洋研究開発機構は公開シンポジウム「気候大変動の時代に生きる―自然との共生の知恵を求めて」を東京都千代田区の一橋記念講堂で開催した。世界トップクラスのスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を用い、温暖化などについて研究する「21世紀気候変動予測革新プログラム」の成果を発信する場だ。

 身を焼くような連日の猛暑に、記録を塗り替える豪雨…。今年の夏も気候の変動を感じさせる事例には事欠かず、大きな問題として社会の関心を集めている。最先端の研究成果を知ろうと大勢の人が会場を訪れ、研究者の話に熱心に耳を傾けた。

時岡氏はESMについて説明した
時岡氏はESMについて説明した

300年先のシミュレーション


 第一部では4人の研究者がそれぞれの研究成果について講演を行った。


 このうち、数百年先まで地球環境の変化を予測できる「地球システム統合モデル」(ESM)を開発した海洋研究開発機構の時岡達志氏は、様々な将来のシナリオに沿ったシミュレーション結果を紹介した。それによると、産業革命以降の地上の気温上昇を2度以下に抑えるシナリオを実現するには、21世紀後半には化石燃料に起因する炭素排出量を0以下にしなければならないという。また、2100年以降の温室効果ガス濃度を一定とするシナリオで2300年までを予測した場合、残念ながら海洋の温暖化は21世紀とほぼ同じスピードで進み続け、水位の上昇も継続するという結果が出た。


 そして、気候変動にともなう植生の変化についても分布予測図を示しながら説明し、「現在はロシアなどに分布している北方落葉樹林は、2300年にはなくなってしまっている」と、現在とはまったく自然環境が異なる地球の姿を示して見せた。


豪雨・台風の変化


 また、気象庁気象研究所の鬼頭昭雄氏は、温暖化予測では世界で最も解析度の高い全球20km格子の気候モデルを用いて行った、将来の台風や豪雨の予測を紹介した。

講演する鬼頭氏   白熱したパネルディスカッション
講演する鬼頭氏   白熱したパネルディスカッション

 二酸化炭素濃度が増加し温暖化が進むと、水蒸気量や大気の安定度は増すが、降水量の増加が小さいため上昇気流が弱くなる。このため台風の数は減り、今世紀末の世界全体の台風発生状況は、現在の88個から66個へと約20%の減少と予測されている。一方で鬼頭氏は「いったん発生すると発達に必要な水蒸気が多いため、強度は増す。強い台風が増える」と述べた。一日に300mm以上の大雨が降るケースも増えると予測され、より強く、より狭い範囲で雨が降るようになるという。これらの研究結果は、水害のシミュレーションを行うチームと共有され、防災にも役立てられていく。


シミュレーションからリスク対応へ


 続く第2部では東京大学の住明正氏をモデレーターに、「気候シミュレーションから見えてくるリスクへの対応」というテーマで、パネルディスカッションが行われた。


 「原発の専門家は、事故があるまで原発の安全性を信じていた。私たち気候モデルの専門家も同じではないかと思われている。(甘い予測ではなく)シビアなモデルにしていかなくてはならない」と語ったのは、国立環境研究所の江守正多氏だ。江守氏はさらに「科学的な情報が提示出来ても、リスク管理には社会的な動きが必要になる。科学的情報と社会的判断をどう融合させていくべきか考えなくてはならない」と指摘した。


 筑波大学の三村信男氏は、「温暖化による農作物への影響が顕著であったり、熱中症患者も増えたりしている」と身近な弊害を挙げた上で、リスクへのアプローチとして「『熱中症対策など、今起こっている影響に速やかに対処する』ことと『地域計画や分野別の政策の中に気候変動について盛り込むなどの、中長期的な適応策』に分けて考えるべきだ」と述べた。


 また、文部科学省技術参与で革新プログラムの統括でもある西岡秀三氏は、気候変動対策をめぐる国際情勢について「人々は目の前のことに精いっぱいで、その先のことなんて考えられなくなっている。気候変動に関して国際共闘するのも無理な方向に変わってきた」と冷静に現状を見据えた。その上で「しかし、何としてもどこかで止めないといけないことは確かだ」と強い決意を見せた。


 「人間は、エネルギーを使うことは人間の権利であると思っているので、気候変動問題は経済問題でもある。だからリスクを評価することが重要な役割になるのだが、水の変動や生物種の絶滅など様々な事象が絡むので、リスク評価がとても難しい」と述べたのは、製品評価技術基盤機構の安井至氏だ。安井氏は「気候変動問題を気候変動だけで解いていく時代は終わった。ありとあらゆるリスクを計算・推定できる情報基盤を作ることをしていかなくてはならない」と今後の方向性を提示した。


 ディスカッションの最中、「シミュレーションの精度をあげることで、それを元にリスク対応を考えられる段階まで、ようやく漕ぎつけた」という趣旨の発言が、何人かの口から飛び出した。研究の成果を踏まえつつ“次の段階”を目指す彼らの口調は、一様に熱かった。


 東日本大震災と原発事故を機に、気候変動の研究に関する風向きが、少し変わってきたそうだ。それまでは「危険を煽っている」と言われていたのに「最悪の事態を含めて、あらゆることを考えているのか」と問われるようになってきたという。日本社会は“想定外”という言葉の虚しさを、嫌というほど思い知った。気候変動に対しても同じ過ちを繰り返さないよう、さらなる研究の発展と、成果の社会への反映を期待したい。

(井上恭子)

【セミナーデータ】

イベント名
:「気候大変動の時代に生きる―自然との共生の知恵を求めて―」
主催   
:海洋研究開発機構
開催日  
:2011年8月22日
開催場所 
:一橋記念講堂(東京都千代田区)

【関連カテゴリ】

トレンドその他