セミナーレポート

日米イノベーションの比較

つくばとシリコンバレーとの比較で検討

このエントリーをはてなブックマークに追加

2011/8/29

 2011年7月27日、秋葉原ダイビル14階にある「筑波大学秋葉原キャンパス」にて、「インダストリアルイノベーションの日米比較-つくばとサンフランシスコ・シリコンバレー地区の比較検討からの含意-」が開催された。

講義の合間では、多くの質問が飛び交った
講義の合間では、多くの質問が飛び交った

つくばがシリコンバレーになるために


 30年ほど前に研究学園都市としての整備が完成した茨城県つくば市。つくば市は、筑波大学、産業技術総合研究所を中心に様々な機関が集まっており、現在、研究機関300、研究者2万2000人、研究開発型ベンチャー企業200以上を抱えている。「JAXA筑波宇宙センター」や、画期的な癌の治療法を行う「陽子線医学利用センター」のほか、1973年にノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈氏も研究者としてつくば市に在住している。


 しかし活発な研究開発に反して、上場を果たしたつくば市発のベンチャー企業は1つもなく、つくば発のイノベーションが世界を席巻したこともない。それでは、世界に向けてイノベーションを創出・発信していくためにはどうすればよいのか?ベンチャー企業創設とイノベーションの世界的なメッカ「シリコンバレー」との比較から検討した。


 筑波銀行の総合企画部経済調査室長・熊坂敏彦氏は「つくばが、シリコンバレーのようになるためには何が必要なのか?」と題して講演をした。近年、教授によるベンチャー企業創設が進んでおり、つくば市にある研究機関の中心でもある「筑波大学」は、東京大学についで2番目の大学発ベンチャー創設数を誇っている。「筑波大学は、自由度が高くベンチャー創世の風土がある」と熊坂氏は話す。


 こうして起業されたベンチャー企業は、微生物の光合成により重油などを産出する「発微細藻類エネルギー」など世界をひっくり返しかねない再生エネルギーの研究から、IT、スポーツ、メンタルヘルス、果ては農業法人までと幅広く、ユニークだ。


 しかし、研究学園都市の性質上、ベンチャーの核となる技術や研究は数多くあるものの「代表者である研究者がビジネスモデルから戦略まで全て考えているベンチャー企業ばかりで、1つとして上場を果たしていない」という。シリコンバレーでは様々な分野におけるスペシャリストがいるため、必要に応じてチームを作れるという。熊坂氏は「ベンチャー企業が上場を目指すためには、財務など経営全般を見ることができる『経営人材』が必要だ」とした。


 同氏は、ほかにもつくば市がシリコンバレーのように発展していくためには、ベンチャーキャピタルの創設やベンチャー出身エンゼルといった「資金調達面」での強化のほか、「つくばエクスプレス(TX)以外の交通インフラ」「ユニークで革新的なサービス業」「生産機能の集積」を進めることで、「投資家にとって投資をする魅力がある土地づくりを進めていくべきだ」と締めくくった。

筑波銀行総合企画部経済調査室長・熊坂敏彦氏   日本貿易振興機構海外調査部北米課長・中島丈雄氏
筑波銀行総合企画部経済調査室長・熊坂敏彦氏   日本貿易振興機構海外調査部北米課長・中島丈雄氏

シリコンバレーや米国の最新事情


 日本貿易振興機構の中島丈雄氏は、シリコンバレーとクリーンテックについて、米国の最新事情を中心に講演した。クリーンテックとはクリーンな技術、すなわち化石資源の消費や環境への負荷を減らし、再生可能エネルギーを活用する技術など全般を指す。


 米国では現在、伸び続けるエネルギー消費に対して原子力発電所の稼働率向上と、エネルギー輸入の増大で対応している。一方で、国内の化石燃料生産や再生可能エネルギーの伸びが鈍く、こうした外部への依存が高まり続けているエネルギー事情が、米国の足かせとなっている。米国では、既存のエネルギー開発を進めつつ、クリーンテック関連の新技術の導入でエネルギー自立と国力強化を進めている。


 そのため、不況下においても、米国のクリーンテック関連の業績は軒並み伸びている。クリーンテック関連は、最終的に世界のエネルギーを牛耳れる可能性があることから、驚異的な市場規模があると言われており「『クリーンテック』と一言にいっても太陽電池から、廃棄物処理、メーター、インフラ、水処理、フィルター開発など幅広い業種への広がりと厚みを増してきている」と中島氏は話す。


 また中島氏は米国のベンチャー事情について「売上上位100起業を挙げると、日本は大半が戦中戦後に起業した企業に集中しているが、米国は新旧がまんべんなく存在する」と説明する。中小企業の数も米国との比較で少なく、また全体の企業数も停滞している日本と比較して、米国では常に増え続けている。


 少し前までは金融系が引っ張っていた米国経済は、リーマンショックの影響で一度勢いを失った。しかし現在は「IT系、環境系などの技術系や医療、日常に必要なアパレル、飲料・食品などが伸びて」米国経済をけん引している。米国では過去にも危機に遭遇した際にシリコンバレーなどから新設されたベンチャー企業によってイノベーションが起き、米国経済全体のエンジンとなるという現象が起きている。中島氏は「未開拓な分野を切り開く中小企業や個人が、経済の活気・新陳代謝を支えている」とした。


 バブル崩壊以来、日本経済の停滞感は払しょくされないまま20年が過ぎている。米国と対比した際のイノベーションの停滞、大企業の独占という日本の現状は、単につくばとシリコンバレーという比較にとどまらず、日本経済全体における停滞感の原因にも触れている。あるいはこれら研究によって、日本経済全体の閉塞感が打ち破られるかもしれない。

(井上宇紀)

【セミナーデータ】

イベント名
:「つくばイノベーション&スタートアップス(TIS)研究会」
主催   
:独立行政法人 産業技術総合研究所
開催日  
:2011年7月27日
開催場所 
:秋葉原ダイビル14階(東京都千代田区)

【関連カテゴリ】

経営改善