セミナーレポート

先進的な産学官連携に関する講演

企業と大学が取り組む連携講座の内容とは

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2011/8/25

 大阪大学大学院工学研究科と東京大学大学院工学系研究科は2011年7月26日、東京国際フォーラムにて、先進的産学官連携シンポジウムを行った。大阪大学は2006年に全国に先駆けて企業と共同で研究を進める「共同研究講座」を設けており、東京大学も2008年度から「社会連携講座」を設けるなど、産学官連携について熱心に取り組んでいる。そうした取り組みの具体的な内容や現状に関する講演が行われた。

 産業界が、時機を逃さず高い技術を開発・展開していくためには自前の資源だけでは限りがあるため、オープンイノベーションなどに取り組んでいく必要がある。大学側も、産業界からの要求が高度化しているなか、国際競争の激化などの厳しい経営環境のもとで、社会の期待にこたえていかなくてはならない。こうした「産」と「学」を文部科学省、経済産業省などの「官」がサポートしていくことで、社会のニーズにより合致した研究成果を生み出すことが期待でき、それに関わる研究者や学生の成長にも繋げることができる。それが産学官連携の醍醐味だ。

大学関係者や自治体、連携している企業を中心に集まった
大学関係者や自治体、連携している企業を 中心に集まった

大阪大学の取り組み


 文部科学省の科学技術・学術政策局産学連携地域支援課の池田貴城氏は産学官連携について、「イノベーション創出や競争力強化、研究成果の社会還元など、お互いの使命・役割を十分理解し、Win-Winの連携に持っていくことが必要」と説明。その上で、研究成果が広く社会に還元されるように、基礎研究から実用化まで、様々なフェーズで文部科学省が支援していることを示した。


 また、大阪大学大学院教授の馬場章夫氏は、企業から提供された資金で同大学に設置している「共同研究講座」を紹介。双方の研究者が共通の課題について2年から10年の期間で研究を行っていると説明した。  さらに同氏は同大学が「協働研究所」を設立し、企業との「共通の場」を設けることで、相互に研究の情報や技術、人材を利用して、研究成果の産業への活用促進や高度な人材育成を行っていることを明らかにした。

文部科学省・池田貴城氏   大阪大学大学院・馬場章夫氏 
文部科学省・池田貴城氏   大阪大学大学院・馬場章夫氏 

連携講座のメリット・デメリット


 一方、東京大学の中尾政之氏は、同大学が2008年度から、公益性の高い共通課題に対して企業と共同研究を行うために開設している「社会連携講座」を紹介。同講座のプラス面とマイナス面について言及した。


 中尾氏はプラス面として、学生がビジネスの臨場感を感じ、緊張感をもって研究できる点や、企業がビジネスライクに大学に研究を委託できるといった点を挙げている。またマイナス面としては「論文や特許になるような研究成果はそう簡単には出てこないし、(共同研究の責任者となる)特任教授は短期決戦を強いられ、負担に感じることも多い」と指摘している。


 中尾氏は今後の社会連携講座の発展について、「企業の中央研究所の代わりに基礎研究を請け負わなければならない。また短期的な目標として、導入教育としてエンジニアに仕事の楽しさを理解させることが重要」と話している。


ダイキンの例にみる共同講座開設への流れ


 後半では企業と大学の共同講座について実例に基づいた説明が行われた。例えば、化学品などの大手メーカーであるダイキン工業株式会社(以下ダイキン)は、大阪大学の様々な先進的技術をフュージョン(融合)することによって、フッ素化合物に関する革新的な基盤技術を創造している。もともと同社は蛍石からフッ素化合物を作り出す手法で、1800種類にも及ぶ製品を世に送り出している。


 ダイキン共同研究講座 招へい教授の足達健二氏は、大阪大学との共同研究講座に至るまでの過程を説明した。それによると2005年、ダイキン副社長が大阪大学総長と会談し、工学研究科と包括提携することがトップダウンで決定した。しかし、ダイキン側が1年間、教授と面談を繰り返し、サンプルワークも実施したにも関わらず、なかなか密な共同研究には至らなかったという。


 共同研究が進まなかったのは、大学側からの研究参加者がほとんど現れないことが原因だった。そこで教授陣や学生などにヒアリングを実施した結果、フッ素が研究対象になりにくい理由として「フッ素は非常に危険で、取り扱いが特殊だというイメージが強い」「フッ素の材料は入手が困難で試薬メーカーから購入すると、価格が非常に高い」「実験で使用した後の含フッ素廃薬品の処分が厄介である」ことなどが判明。その結果、大学側は、フッ素を専門に扱える設備を備えたダイキンの実験室を学内に設けるべきだという結論に達した。この時に作られた実験室が、共同研究講座の原型となったという。


 そして共同研究講座は、前述の課題も一つ一つ克服していく。フッ素化剤など、様々なフッ素化合物を常備できる運びとなり、危険な試薬類・ガス類は、ダイキン研究者が大学側に教育・指導し、立ち会いのもとで使用できるようになる。これによって、安心してフッ素化合物を扱える環境ができたという。さらに実験後に発生する含フッ素廃薬品は同講座で引き取って処分することができるようになった。


 足達氏は「多くの提案をいただき、これまで計11研究室・12テーマに取り組むことができた。現在8研究室で共同研究を推進中」とし、今後の共同研究に期待を込めた。


 産学官連携事業は、短期間で成果を求められるなど、担当者にとってはハードルが高く、ダイキンの事例のように実際に講座を開設するまでに様々な問題が発生することも多々ある。しかし、それを乗り越えることで、多くの特許などの成果につなげることができる。企業と大学が慣れ合うことなく、成果を純粋に求めていくことが重要であり、そうしたことが、大阪大学や東京大学では機能していると改めて感じさせられるシンポジウムだった。

(山下雄太郎)

【セミナーデータ】

イベント名
:「先進的産学官連携シンポジウム」
主催   
:大阪大学大学院工学研究科、東京大学大学院工学系研究科
開催日  
:2011年7月26日
開催場所 
:東京国際フォーラム(東京都千代田区)

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