セミナーレポート

自治体総合フェアが開催

震災を踏まえた自治体クラウドを模索

このエントリーをはてなブックマークに追加

2011/8/4

 東京ビッグサイトで2011年7月13日から3日間開催された「自治体総合フェア2011」。これまで業務効率化やコスト削減を中心に進められてきた自治体クラウドだったが、今回は東日本大震災を踏まえた災害対策での利用方法が講演の中心となった。また、町おこしでのIT活用など、多岐にわたる講演がなされた。

震災とクラウドのあり方についての講演が目立った
震災とクラウドのあり方についての講演が目立った

「自治体クラウド」のネックは寡占


 1日目の講演に登壇した総務省の高地圭輔氏は、自治体クラウドの課題として大手ベンダーの寡占を挙げた。


 自治体クラウドは、業務の効率化やコスト削減を目的として、主に業務系システムを対象にしているが、九州の自治体ではほとんどの市町村が、大手ベンダー3社による寡占状態であるという。高地氏は、「現在のベンダーでシステム更新をすると2500万円、乗り換えると1億円という金額を提示された、という報道もあった」と行政の使用しているITコストパフォーマンスの悪さを指摘した。


 自治体職員とベンダー側の知識の差などにより、ベンダーによる囲い込みで独占状態が生まれ、価格が非効率に決定されているのが自治体情報システムの現状である。加えて規模の小さな自治体では、財政や人材の不足から高度な情報システムを構築するのが難しいという。


 こうした事態を打開するため、総務省主導で、全国3か所のデータセンターを借用し、6道府県、78市町村が参加して自治体クラウドの開発実証を行っている。「京都府では仮想化などの技術でサーバ台数が5~6割削減されて初期費用と運用コストが減った。また佐賀・大分・宮崎・徳島の各県では、佐賀県にあるデータセンターで、税務や保険などの基幹業務を共同利用し、システム停止は最小限に抑えられた」(高地氏)と、まずまずの結果が出ているという。


 高地氏は「企業間の競争を生かしたクラウド化を進めたい。ASPやSaaSなどを複数の自治体で『割り勘』利用することでコストカットができる」として浮いた資金を新たなサービスなどで住民へ還元する仕組みにしていきたいと展望を述べた。

震災直後の写真も出されたパネルディスカッション   被災現場でシステム構築をした長坂氏
震災直後の写真も出されたパネルディスカッション   被災現場でシステム構築をした長坂氏

震災時のクラウドは


 同日行われた「自治体クラウドの展望」と題されたパネルディスカッションでは、東日本大震災を踏まえた自治体のクラウド利用について議論がなされた。仙台市職員の今井建彦氏は、IT利用について「電源がなければ何もできない。メンテナンスをしていなかった発電機は動かないものもあった。最低でも3日間動く自家発電設備が必要だ」と訴えた。


 震災後の業務にも触れ、「他県の自治体の方が業務支援に来ても、業務システムの利用に慣れてきた頃には帰ってしまう。SaaSのような情報システムで、お互いの業務が共通化していないと復旧はなかなか進まない」と現場の状況を説明した。


 2日目の講演では、防災科学技術研究所の長坂俊成氏が登壇し、同研究所が今回の東日本大震災での被災地支援のために構築したシステムを紹介。標準化技術などを利用し、どんなブラウザでも被災地の位置情報と被害状況、必要とされているボランティアなどの情報が統合されたものを提供したという。


 岩手県釜石市では、がれきの撤去要請や処理状況を地図画面で把握できる支援システムを構築するなど、被災地の行政業務サポートも行った。罹災証明書の発行業務は戸別の個人情報が含まれるため、SaaSの運用はなされず、それぞれの自治体のイントラネットでシステムを構築したという。


 一方、同研究所の支援が断られたケースも目立ったという。長坂氏は「ボランティア管理をグループウェアで行うなどの提案をしたが、福島県では断られ、岩手県でも遠野市のみの支援となった。私たちの活動を従来から自治体で行っていないと理解を得られず、支援の提案も通らない」と、普段からこうした取り組みを行政側に認知させる必要性を説いた。


地域ごとのサービスの提供も


 災害対策だけでなくIT利用による町おこしも行われている。3日目の講演では、長崎県の離島である五島列島での取り組みが紹介された。年々人口が減少している同島では、島内のレンタカーを全てEV(電気自動車)にし、観光地に近づくと自動的に表示されるカーナビを導入して観光誘致を行っている。


 EVにはつきものの充電残量の不安も、観光スポットの駐車場に充電器を設置するなどして島内では安心して走行できるようにしているという。講演した長崎県産業労働部の伊藤幸繁氏は「将来的に充電スポットに風力などの発電機能を備え、災害時の拠点になるようにもしたい」と語った。


 「自治体クラウド」の目的は、コストカット・効率化に加え、災害やテロなどのインシデントが発生しても「自治体業務を止めない」ことが今回の震災でより明確になった。よりよいシステムを導入するためにも、行政側がメーカーに依存しない、システム導入時の間口を幅広くとるなどの体制づくりが必要である。

(中西 啓)

【セミナーデータ】

イベント名
:自治体総合フェア2011
主催   
:日本経営協会
開催日  
:2011年7月13日~15日
開催場所 
:東京ビッグサイト(東京都江東区)

【関連カテゴリ】

クラウドIT政策