キーワード解説

特集などに出てきた重要語句を分かりやすく解説

2012/3/26

EHR

概要

 EHRとは、Electric Health Recordの略。直訳すれば「電子健康記録」。1人の生涯にわたる健康記録(健康診断結果、診療記録、レセプトなど)に関する電子的な記録で、医療情報化の基盤とされる。


歴史


 医療情報の電子的な記録は、かなり古くから行われている。大病院における院内の情報システム化は1970年代からすでに実装されており、1人の患者情報などを病院内で共有するために、メインフレームを中心に導入されていた。


 2000年代に入り、e-Japan計画とともに「医療とIT」という言葉使われるようになると、脚光を浴びるようになる。試験的に導入したいくつかの病院が成功例を重ねていくが、まだ医療機関全体から見ると極々少数派でしかなく、全国的に広まっているとは言い難い。


 2009年にはレセプト(医科、薬局などが保険を利用した患者の医療費・調剤費などについて保険者へ請求する明細書)のオンライン全面義務化が予定されていたが、対応などに膨大な費用がかかることから特に零細の医療機関から猛烈な反対を受け、撤廃されている。健康診断記録、電子カルテほか、レセプトの記録などを合わせてEHRにするという計画もあったため、推進という立場から見ると厳しい状況となった。


 2011年に東日本大震災がおきると、津波で紙の診療記録が多く消失した。このことを踏まえ東北では「災害対策」という側面から、電子的な医療記録が見直されており、復興に際して医療ITという立場からEHRへの移行も検討されている。


効果


 かつて病院に求められていた機能とは、何らかの突発的な病気などにかかった場合に完全に治癒をして社会に復帰させることだった。


 社会全体の高齢化が進むと、病院は「恒常的に通い」社会生活を送れるように健康状態を整えるための施設へと変わってきた。生活習慣病や、糖尿病あるいは延長上にある腎不全などはその典型的なものであり、例えば糖尿病患者は恒久的に通院・健康管理を続ける必要がある。そのとき、患者に適応した医療体制を築くためには、情報のやりとりが柔軟にでき、連携が容易な電子記録が好ましく「EHR」という選択肢が望まれる。


 またアクセスが容易な記録を作ることで適切な健康管理ができ、結果「健康である」時間を延ばすことが、医療費全体を圧縮にもつながる。


 先ほど例に挙げた「糖尿病患者」において、健康管理が適切であれば症状は進行せず比較的、大きな問題は発生しない。しかし管理を怠たり症状を悪化させ一度「腎不全」に陥ると透析が必要になる。透析には1人の患者あたり年400万円もの出費が保険組合からされており、日本全体では1年間の医療費のうち約1/30にもなる1兆円が人工透析の費用となっている。これらは適切な健康管理さえあれば重症化を防ぐことができたケースが多く、予防が実現すればかなりの費用の削減が見込める。そのために容易にアクセスできる「EHR」は健康管理の側面からも高い効果が期待されている。

現在、地域医療体制の構築(緑枠)を目指しているが、最終到達地点は緑枠が全国に広がってできる国内連携(青枠)にある。その連携を結び付ける(橙線)のがEHRである。
現在、地域医療体制の構築(緑枠)を目指しているが、最終到達地点は緑枠が全国に広がってできる国内連携(青枠)にある。その連携を結び付ける(橙線)のがEHRである。

課題と今後


 現在、法的にはカルテは5年しか保存義務がない。「恒常的な患者の健康情報の記録」と「健康管理のために自身の健康情報へ気軽にアクセスできる利便性」を保つため、カルテの法的な立ち位置に関しても議論する必要が出てくるだろう。


 EHRで言う「医療記録」とは、ただ単にPCでカルテを打ち込むということではなく、医療機関同士の連携の軸として使われて初めて本来的な役割を発揮できる。そのため、東北などで行われている「医療IT」化の中でEHRは、全国普及をあらかじめ想定し、国際規格EL7を元にした「SS‐MIX」という厚生労働省が示した規格を主軸として導入されている。


 最大の課題点は「セキュリティ」だ。個人の重要な情報を預かるため、どのようなセキュリティを施すか、あるいはどのような団体が管理責任を負うのか、どのような権限者が閲覧することができるのか、協議が必要になってくるだろう。

(井上宇紀)

【関連カテゴリ】

IT政策