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武山政直 慶応義塾大学経済学部教授に聞く
代替現実ゲームに見る情報送受信の変化

慶應義塾大学経済学部教授
武山政直
代替現実ゲームに見る情報送受信の変化

 米国に端を発したARG(Alternative Reality Games=代替現実ゲーム)というものがある。インターネット上で出されたパズルの答えをもとに、現実にある場所に行くと、次はインターネット上アドレスの書いてあるメモ用紙が置いてあって…というようにバーチャルとリアルを織り交ぜた進行をしながら目的を達成するゲームだ。
 慶応大学経済学部で都市解析・空間解析などを研究している武山政直教授は、米国における代替現実ゲームの隆盛を単なるブームではなく「情報受信者側の変化」と捉える。
 情報受信者の変化に企業などの情報送信者はどう対応していけばいいのか、その先進的な取り組みとしての代替現実ゲームを軸にして、武山教授にお話をうかがった。

代替現実ゲームとは?

慶應義塾大学経済学部教授 武山政直氏
慶應義塾大学経済学部教授 武山政直氏

―武山教授の研究分野などご経歴についてお話し下さい。

武山氏 大学では都市解析・空間解析の研究をしておりまして、海外留学後は慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスで助手になりました。
 湘南藤沢キャンパスはインターネットやモバイル、マルチメディアなどの先端的な研究が盛んだったので、私も都市解析・空間解析の分野とIT分野を結びつけた研究を始めました。現在の三田キャンパスに移っても、都市空間の中でITを使うことで消費者行動などがどう影響を受けるか、どういうサービスが今後は望ましいのかということを継続的に研究しています。

―研究をされている都市空間での消費者行動といった分野から、代替現実ゲームに興味を持たれるようになったのはなぜでしょうか。

武山氏 リアル空間と情報空間を結び付けるような技術は、ユビキタスコンピューティングから、センターを使ったサービス、携帯電話の位置情報サービスなど様々です。ところが代替現実ゲームは、テクノロジーの利用に重きを置かず、ストーリーや演出、仕掛けなどで、リアルとバーチャルを結び付ける非常にユニークで面白い手段なのです。
 技術だけで人の心や行動を喚起するには限界があると思っています。テクノロジーに加えて、人の心を動かす仕組み・仕掛けを技術と組み合わせていくことができれば、人間の行動喚起はうまくいかないのではないでしょうか。
 ところが「人の心をどう動かすか」ということは、まだ研究が進んでいない分野です。そういう意味でも代替現実ゲームは、そのような仕掛けを研究するためには非常に重要な事例ですね。

―日本ではまだあまり知られていない「代替現実ゲーム」についてお話しいただけますか。

武山氏 2001年にマイクロソフトのエンターテイメント部門がインターネットの特性を利用した新しいエンターテイメントを作ろうと考え、スピルバークの『A.I.』という近未来のロボットを主題とした映画と連動させた『The Beast』という作品が最初の代替現実ゲームです。
 この作品の導入口はA.I.の予告編にありました。エンディングにあるスタッフロールをよく見ると「感情を持った機械のセラピスト」という変わった肩書の人物の名前が書かれているのです。
 実際にネットでその人物を検索すると、その人物のホームページや論文が出てくる。ホームページ上にあるメールアドレスにメールを送ると本人から「ある事件に巻き込まれている」というような内容の返信までくる。
 ユーザがその事件について調べると、本人のブログや関係を匂わせる企業のホームページなどあちこちから断片的な情報が見つかるようになっています。そこで複数の有志がネット上に“まとめサイト”を作り、断片的な情報を持ち寄って話し合いながら謎の真相に迫っていくわけです。

 我々は新聞やテレビ、あるいはネットの情報を仕入れ、それを頭の中で再構成することで世界全体というものを認識しています。その情報網に仮想世界の情報を滑り込ませることで、よりリアリティを持って世界観に深く入り込むことができるゲームが出来上がります。

トランスメディアストーリーテイリング

―なるほど。もう少し詳しく聞かせて頂けますか。

武山氏 代替現実ゲームの流れをもう一度整理すると、ばらまき・回収・再構成という形で物語が成立しています。つまり製作者は、雑誌の広告やドラマ、出版物、果ては電話のメッセージや現実の場所においたメモ書きなどあらゆる媒体にメッセージやヒント、またはヒントにつながる謎掛けをばらまきます。それらを参加者が収集し謎を解いていきながら、これらを1つの物語に組み立てていくという流れになります。
 ヒントにつながる謎掛けは複雑ですし、現実の場所にあるヒントは近くに住んでいる人でないと入手が非常に困難です。そのため代替現実ゲームは参加者たちがインターネットなどの手段を用いて協力しながら進めていくのが一般的です。
武山教授が代表を務める「ユビキタスエンターテイメント事業創造コンソシアム」が手掛けた初の国産ARG「RYOMA THE SECRET STORY」
武山教授が代表を務める「ユビキタスエンターテイメント事業創造コンソシアム」が手掛けた初の国産ARG「RYOMA THE SECRET STORY」
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 このように、たくさんの人が集まって1つの課題を解決する手法という視点から見て、ウィキペディアのような集合知の一種と考える人もいます。『The Beast』のケースだと映画の宣伝に使われていたことから、新しいマーケティングキャンペーンの手法と言う人もいますし、もちろん新種の参加型ゲームと考える人もいて、いろいろな角度から捉えられているようです。

―それでは代替現実“ゲーム”という言葉も若干語弊がありますね。

武山氏 そうですね。「ゲーム」と言ってしまうといわゆるスクリーンの中のものを想像してしまう方が大半だと思います。そうではなく「リアルと現実を結び付ける手段」だと説明したいときに「ゲーム」という言い方を用いると、誤解を与えたり狭い理解しかされなかったりするかもしれませんね。

 あえて命名するならば「ユビキタスエンターテイメント」などでしょうか。メディア研究者の間では「トランスメディアストーリーテイリング(trans-media story taling)」の一種だと言われています。トランスメディアストーリーテイリングとは、様々なメディアを超えて展開していく、物語の手法のことです。

― 一種と言いますと、トランスメディアストーリーテイリングという分野ではほかにもいろいろな作品があるのですか。

トランスメディアストーリーテイリングは複数のメディアを介してストーリーが進行する
トランスメディアストーリーテイリングは複数のメディアを介してストーリーが進行する
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武山氏 例えば『マトリックス』がそうです。3部作の映画、オンラインゲーム、据え置き機用のゲーム、コミックがそれぞれの焼き直しなのではなく、異なるメディアを横断して物語の進行をつないでいます。
 他にも最近は、ドラマの主人公が本を出すなど出版との連携もあります。主人公が出した本の中に走り書きなどのミステリーが散りばめられているわけです。当初はインターネット中心だったのですが、他のメディアやリアルのイベントとインターネットとを組み合わせるケースも増えました。最近ではテレビドラマと連携するケースもありましたね。

 ドラマの場合は、テレビシリーズの1部と2部の間に代替現実ゲームを埋め込んで、世界観を補完します。例えば漂着した無人島でのサバイバルを描いた「LOST」というドラマでは間でその無人島ができた理由などと言ったバックストーリーが代替現実ゲームで展開されます。ドラマシリーズの1部が終わっても、ドラマの世界が引き続き楽しめる上に、参加者は世界観により没頭できるわけです。
 そして代替現実ゲームのエンディングにたどりつく頃にはドラマの2部が始まります。普通だったらドラマが終了したら受信者と送信者の関係はそこで終わりですが、代替現実ゲームを用いることでファンとフィクションの世界観とのつながりを深く長く維持することができるわけです。

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