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田中 博 東京医科歯科大学情報医科学センター長に聞く「これからの医療において根幹をなすIT活用とは」」

東京医科歯科大学情報医科学センター長
田中 博
「これからの医療において根幹をなすIT活用とは」

 医療分野におけるITの導入は、電子カルテ活用による病院運営の効率化や、医療機関が保険者に医療費を請求する明細書・レセプトのオンライン化などによる医療事務作業の軽減という医療分野内の補助的な作用が謳われることが多い。
 しかし、東京医科歯科大学情報医科学センター長の田中氏は「それは二次的な作用であって、IT活用はこれからの医療の根幹・基盤である」と語る。医療の基盤となるITとはどのようなものか、田中氏にお話をうかがった。


IT医療を取り巻く歴史

―田中先生のIT医療とのかかわりについて教えてください。

東京医科歯科大学情報医科学センター長 田中 博氏
東京医科歯科大学情報医科学センター長 田中 博氏
田中氏 大学で「情報理論」に出会い、情報というような曖昧なものを数学理論で作り上げていることに感銘を受け、計数工学の道に進みました。
 私自身は昔から生命や生物に興味があり、神経のコンピュータとかモデリングなどを勉強するために、博士課程では医学の大学院に行きました。メディカルエンジニアリングといって情報科学を生物に利用する…例えばCTなどの医療工学ですね。
 大学で医療工学の研究を進めるうちに、新設医大にオーダリングシステムを導入するための、システム構築責任者の任がまわってきました。オーダリングシステムとは、病院内のネットワークを通して各部署にオーダーを通すシステムのことです。紆余曲折を経て、2年後オーダリングシステムの導入にこぎつけましたが、これが病院情報システムの分野に携わるきっかけでした。

―「オーダリングシステム」以前に医療情報システムはありましたか。

田中氏 日本の医療情報システムの歴史の最初は1968年、慈恵医大に診療報酬の点数計算用にコンピュータを導入したことですね。診療報酬の点数計算*1は昔、生き字引のように点数を暗記している人がそろばんで計算をしていました。
 しかし生き字引と点数表の本だけじゃ、いつまでも対応できないということで、コンピュータの導入に踏み切りました。私はこれを第一世代と呼んでいます。医療事務という部門内でのみ使用されていた第一世代から、院内全体のネットワークへと移行したオーダリングシステムは第二世代に当たります。

 その後、1980年代になると全国で新設の医科大学を作る動きがあり、新しい病院は今までの病院の因習を引きずっていないという利点から、オーダリングシステムによるIT化を一気に促進させました。高知医大が大成功を収めて以来、他の病院もそれに習えということで、新設医科大学病院でのIT化はさらに加速しました。
 1995年になると、千葉にある亀田病院の本格的な電子カルテの導入が話題になりました。紙カルテは物理的な媒体ですから、1ヶ所にあればほかの場所から見ることはできません。しかしカルテを電子化すれば、ネットワークに接続できる環境下ならどこからでもカルテを見ることができるようになります。これにより地域で連携して患者を診る第三世代「地域医療システム」の基盤ができあがってくるわけです。

―世代ごとに医療ネットワークが広がっていったわけですね。地域医療の基盤となる電子カルテの導入状況についてはいかがでしょうか。

田中氏 400床以上の大規模病院ではかなりの割合で導入されていますが、200床未満の中小病院ではまだ5%程度しか導入されていません。地域医療連携のためには中小病院・診療所の導入が必須です。中小病院が足踏みする原因は初期投資です。初期費用に約5000万円~1億円もかかる投資は気軽にできません。IT化したら診療報酬の点数に加算させるなどして、導入させるための対策を考える必要がありますね。
 厚生労働省は2001年に「保健医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン」を出し、以後のIT化目標を打ち出しました。厚生労働省は、電子カルテ導入のために年間100億円以上の補助金を出し、これによりかなり電子カルテの導入は進みました。国側もIT化せざるを得ないということを認識し始めているようです。

世界の医療IT化への進行度

―日本では導入へ向けて少しずつ動きを見せているようですが、海外では電子カルテの導入はどの程度進んでいるのでしょうか。

世界の医療ITについて語る田中氏
世界の医療ITについて語る田中氏
田中氏 海外では日本よりも早くいろいろな医療情報化プロジェクトが進行していました。イギリスは医療公社(ナショナルヘルスサービス)があり、医療従事者のほとんどは公務員でした。公務員の医療関係者の働きが追いつかないうえに入院まで8ヶ月もかかるため、進行性のガンで死ぬ人がばたばた出ていました。
 当時の首相ブレアはこれに危機感を覚え、2002年に1兆2000億円、2004年にこれを3兆7000億円に上げて英国全体に医療専門のネットワークを引き、国単位による情報化を行いました。今ではどこの医療機関でも処方や画像などの患者情報をすぐに引き出すことができるほどネットワーク化が促進され効率的な医療が受けられるようになっています。

 情報化についてもっとも優秀なのはカナダです。公式にはイギリス女王を国家元首にすえているカナダですが、他の州と異なりフランス人が中心となっているケベック州は、政府と衝突することが多いです。そこでカナダ政府は投資会社を設立し、そこから各州へ間接的にお金を出す形をとることで、州主導となる医療情報化を行いました。これがうまくいき、すでにEHR*2まで導入済みの州もあるようです。

―EHRまでですか、すごいですね。ほかの国はどうなっていますか。

田中氏 アメリカは、ブッシュ政権ではわずかな予算が組まれただけなので、実際に国家的な大きなプロジェクトが動くようなことはなく、名目だけの医療IT化推進策になったようです。そこでマイクロソフトやグーグルなどの民間企業が、個人単位で管理する電子カルテを提供し始めています。これはPHR(Personal Health Record 個人健康情報)と呼ばれるもので、個人で健康を管理するために自ら情報を収集していくタイプの健康情報基盤です。
 個人責任のアメリカらしいといえばそうなのですが、ドイツでも医療情報カードを個人で持たせて管理させました。しかし病院へ行くたびにカードを持って行き、いちいち入力することをしない人も多くいるでしょう。個人で管理していたら、なくしたり、忘れたりということがあり、結局ドイツでは失敗したようです。

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