国際会計基準が企業に与える影響とは:HH News & Reports:ハミングヘッズ

ITをもっと身近に。新しい形のネットメディア

- Home > コラム > インタビュー記事 > 国際会計基準が企業に与える影響とは
 コラムトップページ
 インタビュー記事 ▼
 イベント・セミナーレポート ▼
公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
(動画あり)

坂尾栄治 日本IT会計士連盟代表理事に聞く「国際会計基準が企業に与える影響とは」

日本IT会計士連盟代表理事
坂尾 栄治
「国際会計基準が企業に与える影響とは」

目次
  1. 日本IT会計士連盟設立の背景
  2. 国際会計基準が企業に与える影響
  3. 今後の活動

 日本の会計基準が国際会計基準 の適用へと急速に動き始めたことで、企業は今、大きな変革を求められている。 2009年2月に設立されたばかりのNPO法人・日本IT会計士連盟(略称:ITCPA)は、今後どのような役割を果たしていくのか。 また、国際会計基準が企業に与える影響とはどのようなものか。公認会計士、日本IT会計士連盟代表理事の坂尾栄治氏にお話をうかがった。

日本IT会計士連盟代表理事 坂尾栄治氏
日本IT会計士連盟代表理事 坂尾栄治氏

日本IT会計士連盟設立の背景

―大学の頃から公認会計士を目指し、そのまま資格を取得する方が多い中で、坂尾さんはまず一般企業のSEになり、のちに公認会計士へと転身されています。その動機は?

坂尾氏 大学卒業後、食品会社情報システム部のSEとして勤務していました。業務に活かすため、情報処理や簿記の資格を取得し始めたころ、会計の世界にも興味を持つようになりました。それがSEから公認会計士へ転身するきっかけとなりました。

―公認会計士としての業務とITを結びつけたものは何だったのでしょうか?

坂尾氏 私が井上齋藤英和監査法人(現・あずさ監査法人)に入った頃、ちょうどWindows3.1が1993年に日本で発売され、PCが脚光を浴び始めました。

 また、井上齋藤英和監査法人と提携していた米国のアーサー・アンダーセンが、連結会計のソフトウェアを日本向けにローカライズし販売を始めた時期でもありました。

 当時はまだ監査法人の中にも、ITの知識を持つ人材は非常に少なかった。そこで顧問先への会計システム導入に携わったことが、私の中で公認会計士としての業務とITとを結びつけたのです。

―その後独立し、日本IT会計士連盟を設立した背景についてお教え下さい。

坂尾氏 我々が日本IT会計士連盟設立以前からよく悩んでいたのは、企業が会計制度の変更に合わせ会計システムや業務システムを再構築する際、実際にシステムを構築するITベンダーと、ユーザである企業、そして公認会計士とで、いかにして意思疎通を図るかでした。

 一般的に、ユーザ企業と公認会計士は業務知識に特化しており、一方でITベンダーのSEはITの専門家ですから、お互い意思疎通を図るのが難しい。我々は「SEとユーザの間に立つ公認会計士がいない」と、いつも議論をしていました。

 また、J-SOX(内部統制報告制度)の導入で、「IT統制に対応するためにはITに通じた公認会計士でなければ」と、会計の専門家であり、ITの知識がある人材が必要とされるようになりました。

 そしてITと会計の双方に精通している公認会計士の中でも、同じ問題意識を持っている人間が声を掛け合いながら、日本IT会計士連盟を設立。現在の体制を構築していきました。

企業活動における会計・監査とITの関わり
企業活動における会計・監査とITの関わり(クリックすると拡大します)

国際会計基準が企業に与える影響

―内部統制だけではなく、今後は国際会計基準の日本導入が、これまでのコンバージェンス(収れん)からアドプション(全面採用)の段階へと移行しようとしています。日本独自の会計基準から国際会計基準へと移行することで、どういう変化があるのでしょうか?

坂尾氏 今までの日本の会計基準は業務に則った、日々のビジネスをそのまま紙に載せたものです。毎日の仕訳を記帳していって、結果いくら儲かったかということを、わかりやすく開示するための制度でした。

 しかし国際会計基準をはじめ、新しく求められている会計制度は、コンセプトが根本的に違う。「今この会社はいくらの価値があるのか」という、業務とは別世界の話になっています。

 業務に則った会計制度は、日々の活動をそのまま記していくため、会計システムにも対応させやすい。ですが「今この会社はいくらの価値があるのか」ということを会計システムに組み込むのは容易ではありません。

 たとえば国際会計基準では過去にさかのぼった財務諸表の修正や、公正価格での評価が求められますが、公正価格を容易に求められないものは世の中にいくらでもあります。

 今までの日本の会計基準は、「あるべき論」を提示しているという点では国際会計基準と同じですが、企業が運用する上での実務にも配慮しているのがわかります。しかし国際会計基準は「こうあるべきだから」という理想論ありきで、しかもそれに対応することを企業に要求するような基準がいくつも見られます。

―多くの日本企業では国際会計基準への対応に戸惑いを感じると思いますが、どういったことが起因しているのでしょうか?

坂尾氏 やはり、ノウハウが少ないためです。参考になるような事例については、少なくともヨーロッパが国際会計基準を先行導入していますから、J-SOX導入時のように事例が全く存在しなかった状態とは明らかに違います。US-SOX(米国の内部統制報告制度)は、参考にはなりますがJ-SOXとは別物でしたから。

 国際会計基準については、海外での事例は存在するものの、ノウハウが日本にはまだ十分に溜まっていません。そのため、何をどうすればよいかを明確に答えられる人が極めて少なく、多くの企業が対応に戸惑っているのだと思います。

「企業の本業は会計ではなく社会貢献」
「企業の本業は会計ではなく社会貢献」

―企業はどのような影響を受けるのでしょうか?

坂尾氏 企業が新たな会計制度に対応していく上で、その中には手作業で対応可能なものと、手作業では対応不可能なボリュームのものが発生します。

 また、投資家への配慮ということで、今は日本でも四半期報告制度が導入され、その開示期限は45日以内と決められています。スピードと頻度が求められると、手作業では対応しきれないため、システム化が必要になってきます。

 企業は人を雇い、新しいものを創り出し、社会に貢献するのが本業であり、会計をするのが本業ではない。それにも関わらず、会計という間接業務に多大な労力を注がなければならない。

 間接業務ばかりにマンパワーを奪われることで利益が圧迫され、そのうち上場を止めようと考える企業が現れ始めます。こういった傾向はおかしいですよね。本来の企業活動に注力するためにも、会計のシステム化をよりいっそう進めていくことが必要になるのではないでしょうか。

今後の活動

―国際会計基準の日本導入は、今後アドプションの段階へ移っていくと思いますが、日本IT会計士連盟は、以後どのような役割を担っていこうとお考えですか?

坂尾氏 まず、いまのタイミングで言えば、啓蒙が第一だろうと思います。

 国際会計基準のアドプションに関しては、金融庁の企業会計審議会が2009年2月4日に、2010年3月期から任意適用を認め、2012年に強制適用の方向性を判断。さらに3年間の猶予期間を設けて最終的に決定する方針を発表しています。

 国際会計基準導入初年度には、前年度の財務諸表を全面的に作り直さなければならないなど作業量は膨大です。まだ先の話ということで、のんびりと構えている企業も多いと思いますが、それに大変危機感を覚えています。この事の重大性をいち早く、1人でも多くの人に発信したいと思います。

 また、ITに精通した公認会計士を育て、組織化することが必要だと思っています。

 ITと会計に関し一定以上のスキルを持つ集団を作るために、認定制度を創設したい。会計業務の効率化やシステム化に際し、企業が安心して任せられる人材を育成できればと思っています。またソフトウェアについても、ユーザの要求する機能にどの程度対応しているのかを、日本IT会計士連盟の中立的な基準で評価するような仕組みを作りたいですね。


日本IT会計士連盟のホームページはこちら



※このインタビューとセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



注釈

*:国際会計基準
正式には「国際財務報告基準」。International Financial Reporting Standardsの頭文字を取り「IFRS」(イファース)とも呼ばれる。2005年、EU(欧州連合)域内の全上場企業に対して強制適用された。現在では世界100カ国以上が採用しており、日本とアメリカも自国基準とのコンバージェンスを進めている。日本やアメリカの会計基準が細かい規則と数値基準を定める「ルール主義」をベースとしているのに対し、国際財務報告基準は原理原則だけを示す「原則主義」に基づき作成されている。



【坂尾 栄治(さかお えいじ)氏 プロフィール】

【現職】
日本IT会計士連盟代表理事・公認会計士
坂尾公認会計士事務所代表
有限会社アップライト代表取締役
日本公認会計士協会東京会コンピューター委員会 副委員長
中小企業基盤整備機構アドバイザー

【略歴】
青山学院大学経済学部卒業後、食品メーカーにてSEとしてシステム設計・開発に従事。その後、井上齋藤英和監査法人(現・あずさ監査法人)にて証券取引法監査、商法監査、株式公開支援等を手掛ける。
その後、ビジネスバンクコンサルティング(現・BBH)に設立メンバーとして参画。連結会計システムおよび会計システムの導入に携わる。
2004年8月アップライトを設立。会計、人事コンサルティング、内部統制構築支援および業務システムの開発に従事すると共に、同年設立の坂尾公認会計士事務所において、講演活動や教育活動に取り組んでいる。


(掲載日:2009年4月30日)


お問い合わせ

  コラムトップページへ▲