ICT/クラウドによって実現する未来 東京大学大学院情報学環教授 須藤 修:HH News & Reports:ハミングヘッズ

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ICT/クラウドによって実現する未来


東京大学大学院情報学環教授 須藤 修

目次

 ICTやクラウドの動向が活発化しており、政府でもクラウドシステムを活用した国民IDや、電子行政の実現に向けて動き出しているが、実際の状況はなかなか伝わってこない。東京大学大学院情報学環の須藤修教授は、1980年代より情報通信が社会に与える影響の研究を始め、現在では「ソーシャル・イノベーションとICT」というテーマでICTを活用した予防医療の研究や地球環境問題などに取り組み、政府や自治体のIT戦略にもかかわっている。須藤教授に、現在のICT/クラウドの現状と未来についてお話をうかがった。

東京大学大学院情報学環教授 須藤 修氏
東京大学大学院情報学環教授 須藤 修氏

ICT/クラウドの現在


―現在のICTやクラウドの状況をどのように見ていらっしゃいますか。

須藤氏 今までの既存システムで見れば、日本はそれなりにやってきたと思いますが、今のクラウドの構築状況を見るとそうは思えません。欧米諸国から相当遅れをとっていると思います。

 日本のIT企業は、まだシステムメンテナンスで成り立たせ、企業を自分たちのところにロックインさせようとしていますが、世界はもうそういう動きから大きく変化しています。データを加工するというビジネスに変わってきており、情報をどのように加工し、どんな付加価値をつけられるかが問われています。世界のIT企業は、パッケージシステムを売る業態からシステムでデータを加工する業態に変化したのです。つまり、クラウドのシステムを使って超並列処理の高速演算で高度なシミュレーションやデータ分析を行い、ユーザへいかに付加価値の高いデータを提供するかということが重要なのです。

 今まで一企業で、HPC(High Performance Computing:高性能計算機)は持てませんでした。ですが、クラウドによって大規模なデータセンターが登場し、大規模データを扱えるHPCが誕生しました。必要なときに必要な分だけ使えるので、企業にとっては自前でシステムを用意することなく高機能なシステムを扱えます。

 しかし、クラウドのインパクトはそれだけではなく、今まで得られなかった情報がクラウドシステムによるデータ分析によってどんどん得られるようになるということなのです。それは、例えば、今まで受けていたサービスが価格が100分の1、納期も10分の1ででき、さらに質の高いサービスが受けられる可能性が高まるのです。逆にデータが集められず、分析能力が乏しい企業は、信用度が下がることになりますから、いずれ収益も下がってしまいます。これからは、データをいかに集めてどう計測化するかということが重要になりますし、データキャプチャリングの時代になるでしょう。ですが、日本では、そのインパクトはまだまだ理解されておらず、遅れているというのが現状です。

 日本政府でもEA(Enterprise Architecture)*1SOA(Service Oriented Architecture)*2などを取り入れ、いずれはクラウドにつながっていくようなシステムを作ろうとしていましたが、多くの人々や組織に技術的な面でなかなか理解が得られず、結局実現しませんでした。それができていれば、データ連携や企業間連携なども容易にできたのですが、それすらもできていないのが実情です。今そのツケがきていると思います。そのため、日本のICT/クラウドは、アメリカに頼らざるを得ない状況で、IT産業としては非常に危機的状況だと思います。

国民IDと電子行政で実現する社会

―日本政府では「国民ID」、「電子行政」の実現を掲げ、ITC/クラウドを活用した社会を目指しています。そちらの状況はいかがでしょうか。

須藤氏 国民IDとは、各省庁や自治体にまたがる個人情報をIDによって名寄せを行って高度なデータ連携をし、質の高いサービス、効率的な行政運営を実現させるというものです。

 現在、政府のIT戦略本部では「国民ID」、国家戦略室では社会保障と税制の分野に限って適用する「共通番号」が検討されていますが、今のところ政府では共通番号を実現しようとしています。なぜ、共通番号(社会保障と税制)なのかというと、基礎年金番号がありますが、これは国民全員に発行されていませんし、データ管理がずさんだったために年金問題が発覚しました。また、税制も複雑ですので、それらの管理の効率化・簡素化を図りたいためと考えられます。一方、国民IDは、データの名寄せをして共通のデータベースを確立し、総合的なワンストップサービスを提供するというのが目的で、共通番号とは少し違います。そして、これらの国民の窓口となるのは、自治体の役割になりますから、それらの業務が行える電子行政が必要となるのです。

 国民の中には、「なぜ番号(ID)なのか」と思う方も多いですが、日本には同姓同名の方々の判別の問題や外字処理の問題などがあり、それに対応するにはシステムが複雑化しますし、コストもかかります。だからと言って、名前の字を例えば「ワタナベ」の「ナベ」の字を一律に「辺」に変えてしまうと、国民からは「字が違う」、「これは自分じゃない」という苦情がきます。そうなると、残された方法は番号(ID)しかないのです。
須藤教授は個人情報の状態をチェックする第三者機関が必要だと強調
須藤教授は個人情報の状態をチェックする第三者機関が必要だと強調

―国民からは番号(ID)の問題のみならず、様々な反発も予想されますが、それに対してはどのような対策をとっていくのでしょうか。

須藤氏 政府は、できるだけ上から押しつけるものではなく、国民が「これならいい」と思ってもらえるかたちでやろうとしています。国民の理解を得るには、安心して使えて質の高いサービスを提供しなければなりません。そのためには、セキュリティは不可欠です。IDで集めたデータを勝手に操作されてはだめですから、どう運用されているか、自分の情報がどういう経路で動いているかがわかる仕組みが必要です。

 例えば、デンマークは電子行政が非常に整っています。行政が国民1人1人の家族構成、親の病気、子供の状態などを把握し、その人に合った社会保障、手助けする機関や制度を勧めるような仕組みになっています。例えば、介護しなければならない家族がいると、「こんなサービスが受けられます」、「これを利用すれば負担が減ります」という情報をプッシュ型でその人に教えます。
 しかし、そのためには、行政は国民の詳細な情報を持つことになりますから、行政が個人情報を勝手に使わないよう行政とは切り離した個人情報保護に関する第三者機関が、常にチェックする仕組みがあります。もし、自分の情報がおかしいことに使われているなと感づいたり、不利益なことがありそうだと思ったりしたときは、第三者機関に訴えれば個人情報がどのように使われているかを調べ、是正処理をさせることができます。

―日本にもチェック機関があってこそ、共通番号や国民ID、電子行政が成り立っていくということですね。

須藤氏 そうです。また、EU加盟諸国でも電子行政戦略が進んでいて、各国の電子行政をつなぐ構想があります。行政手続きや行政機能をEU圏で共有化・共通化するということです。
 例えば、ドイツ人がスペインで働いているときにスペインで病気になっても、今はスペインでドイツの社会保険は適用されません。しかし、もしEU各国の電子行政がクラウドでデータ連携していれば、医療手続きとデータのやり取りが簡単にでき、スペインにいながらドイツの社会保険が適用されることになります。さらに、このクラウド構築に自国のIT企業をからませれば、企業は成長しますし、医療や福祉の面でも新たな産業が生まれ、雇用も生まれるという好循環も期待できるでしょう。

 私は、日本政府の共通番号の構想を社会保障と税制に限るのではなく、IT戦略本部が考えているように、国民IDとして開かれたものにするとともに、自治体、企業、NPO、個人が運用できるようにすべきだと思います。そうすれば、官民が連携して新たなサービスを作ることができ、そこから新たな雇用が生まれます。社会保障と税制だけであれば、効率性は上がりますが、雇用は生まれません。行政の効率化をするとともに、民間の雇用を増やすべきだと私は言い続けています。


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