激変する時代を生き抜くための企業活動とは:HH News & Reports:ハミングヘッズ

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公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
は“個人の意識”
(動画あり)

大久保和孝 新日本有限責任監査法人CSR推進部長に聞く
激変する時代を生き抜くための企業活動とは

新日本有限責任監査法人CSR推進部長
大久保 和孝
「激変する時代を生き抜くための企業活動とは」

 企業における重要施策として「コンプライアンス(法令遵守)」「リスクマネジメント(危機管理)」というキーワードが頻繁に飛び交う昨今。その重要性が声高に叫ばれる反面、実質的な言葉の意味を理解し、現場の実態を踏まえた対応をしている企業は少ないのではないだろうか―多くの企業・行政機関の改革に従事する、新日本有限責任監査法人CSR推進部長の大久保和孝氏にお話をうかがった。 

企業不祥事の背景

 食品業界の偽装・不正表示をはじめとする企業不祥事が頻発する中で、社会全体が不安感・不信感にさいなまれている。しかし一方で意図しない表示ミスやこれまでは黙認されてきたような局所的な問題が、急に社会全体の問題としてクローズアップされてきているという面もある。これまでにないほど企業がコンプライアンス対策に躍起になっているにもかかわらず、社会から糾弾される例が後を絶たないという状況において、企業は何をどう取り組むべきなのだろうか。

―社会状況がこのような閉塞感にさいなまれている今、企業不祥事をどう捉えていますか?

新日本有限責任監査法人CSR推進部長 大久保和孝氏
新日本有限責任監査法人CSR推進部長 大久保和孝氏
大久保氏 企業不祥事は大きく3つに分類できると思います。まず1つ目は資産横領や粉飾決算などの「意図を持った悪意による行為」。これは犯罪ですので厳罰に処されるべきであり、議論の余地はありません。
 2つ目は個人情報の流出など「意図しない不注意」です。部外者が簡単に入室できるオフィス環境や、電車の網棚に顧客データの入ったPCを置き忘れるといったような現象がありますが、いずれも一昔前であればさほどの問題にならなかったことが、昨今の社会環境の変化(この場合は急速な業務のIT化)において、もはや許されない行為であるにもかかわらず、その感覚が従業員に浸透していない場合におきる現象です。

 そして3つ目は、食品偽装やインサイダー事件のような「これまでは、実質的には慣行として黙認されてきた行為」が、社会の急激な認識の変化の中で、もはや一刻の猶予もなく許されなくなったことに起因する事件です。例えば、飲酒運転がそのさいたる例です。これまではビール1杯、2杯程度ならば…という感覚が社会通念上にあり、実質的に黙認されてきたのが実態ではないでしょうか。しかし、ここ3年間ほどで社会の認識が劇的に変化し、もはや飲酒運転をすることは一切認められなくなりました。万が一にも、自社の従業員が問題を起こせば、企業としての管理責任が問われ、社会問題となり、社会批判が増幅することで経営に大きな打撃を与えます。呪文のように捉えていた法規則ばかり見ていると、本音と建前による感覚が抜けきれず、社会の環境変化に気付かず、結果として大きな社会問題を引き起こしてしまうのです。特にこの2つ目、3つ目の問題は、急激に変化する社会の要請や期待を捉えきれなかった時に起こる不祥事と言えます。

―どうすれば社会の要請を正確に捉えることができるのでしょうか。

大久保氏 このような社会で最も大切なことは「起こった出来事を冷静に見つめ直す」ことです。枚挙に暇がないほど不祥事が起きていますが、メディアに翻弄されることなく「何が問題だったのか」「その背景にはどのようなことがあったのか」を正確に理解することが重要です。しかし、残念ながら、現実には多くの企業は理解できていません。

 食品業界を例にとると、もともとこの業界の社会的使命は「食の安全性を確保すること」です。そして昨今の食品業界において発覚した不祥事のいずれも、致命的な「安全性」を脅かすようなものではありませんでした。しかし偽装行為が連続して発覚したことにより、「この業界は嘘つきではないか、隠蔽体質があるのではないか」という不信感が社会に蔓延してしまったのです。

 そのような状況の中、多くの食品関連企業は「法令遵守」の徹底を叫び、あたかも「法令遵守」という言葉を免罪符のように用います。しかし社会の本当の期待は「法令遵守」の徹底よりも、誠実かつ透明性の高い情報を消費者に向けて発信し、信頼回復に向けて取り組むことです。つまり企業が取るべき対応は、法令の形式的な用件を整備したりするのではなく、誠実かつ透明性の高い経営を行い、徹底した情報開示を通じて、消費者に「安心感」をもたらす必要があるのです。これらのことは企業が「社会からの要請や期待は何か」ということを正確に理解しきれていない典型的な例の1つではないでしょうか。

間違った危機対策

―「社会の要請を捉えることができない」企業とは、どのような問題点を抱えているのでしょうか。

大久保氏 例えばそういった企業の多くは、内部統制システムの整備やコンプライアンス対策にしても、管理部門や経営者層は「言い訳作り」ばかり行っているのではないでしょうか。「○○の制度を作った」「××の研修を行った」という形式的な実績作りばかりを強調します。
 一方、現場の従業員も「法令遵守」という名のもとに様々な規制がかかり、日々の業務において「あれもダメ、これもダメ」といった縛りがかかり、結果として言われたことさえ守ればいいという思考停止状態に陥ってしまっています。組織のトップが言い訳作りばかりして、現場が思考停止状態となれば、組織全体が仮死状態と言われても仕方がないのではないでしょうか。

 「(目の前にある)ルールを守りさえすればいい」と感じ始めることで人間は物を考えなくなります。物を考えなくなれば、社会の要請や期待を敏感に感じ取ることはできません。哲学者パスカルは「人間は考える葦である」と言っています。多くの企業が、内部統制システムの整備やコンプライアンス体制の構築において、社会の環境変化とは関係なく一律的なシステムを構築し、むしろ人間としての思考力を失わせるような方向に仕向けるなどの悪循環が顕著に現れているのではないでしょうか。
大久保氏はまた、目的意識の欠如した取り組みに警鐘を鳴らすべく、ロバート?ハッチンスの言葉を引用する「まさに現代は瑣末な専門家の脅威にさらされている、古典や哲学に親しみ、自主的に物事を考える人がいなくなった」;
大久保氏はまた、目的意識の欠如した取り組みに警鐘を鳴らすべく、ロバート・ハッチンスの言葉を引用する「まさに現代は瑣末な専門家の脅威にさらされている、古典や哲学に親しみ、自主的に物事を考える人がいなくなった」

―日本企業の内部統制における現状をどのようにお考えですか。

大久保氏 内部統制に関する法制化が成立するに至った歴史的背景は、エンロンやワールドコム、カネボウなどの粉飾決算事件です。いずれも、経営者が暴走したことが問題となった事件であり、従業員による暴走ではありません。つまり経営者による不祥事を抑制する目的で内部統制に関する法制化がなされたのです。

 しかし、日本での内部統制への取り組みは、「統制」という言葉が誤解をもたらし、経営者は担当役員に丸投げしておまかせ、担当役員は現場に文書化作業ばかり一律に指揮をとるといった状態になってしまっています。内部統制構築本来の目的が明確にならず、局所的なことばかりが議論され、全ての事項が等しく重要であるかのように扱われるなど問題が瑣末化され、自主的な判断力を失っている現状があります。その結果、経営者の透明性よりも、従業員の管理ばかりに関心が行き強化されるなど、内部統制システムの本来の目的を見失ってしまうのです。

 内部統制システムは、経営者の意思決定を透明化させることで、経営者に対する牽制を目的としているのであり、システムの透明性は結果として求められていることにすぎません。目的に対する明確な理解を持たないと、無駄な対応に終始し費用対効果も得られません。

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