電子情報の開示(e-Discovery)について何を注意するべきか:HH News & Reports:ハミングヘッズ

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町村泰貴 北海道大学大学院法学研究科教授に聞く「電子情報の開示(e-Discovery)について何を注意するべきか」

北海道大学大学院教授
町村 泰貴
「電子情報の開示(e-Discovery)について何を注意
するべきか」

裁判所における電子情報の開示(e-Discovery)が徐々に注目され始めている。企業としても電子情報を証拠として開示する必要がでてきた今日、電子情報や情報開示について、どのように取り扱いに注意していけばいいのだろうか。このことについて、町村泰貴 北海道大学大学院法学研究科教授にお話をうかがった。


研究を始めたきっかけ

―町村先生がそもそもデジタル・フォレンジックに関する法令に興味を持ったきっかけはどんなところでしょうか。

町村泰貴 北海道大学大学院教授
町村泰貴 北海道大学大学院教授
町村氏 そもそもデジタル・フォレンジックに関する法令というのは、昔も今もあまりありません。警察関係者や渉外弁護士などを除くと、デジタル・フォレンジック研究会(以下IDF)以前は日本でなじみのない概念でした。
 私がフォレンジックに関わり始めたのは、民事訴訟における証拠の取り扱いについて研究してきたことが最初でした。「電子情報が本物かどうか、企業の様々な情報資源の中から、証拠となるものをどうやって見つけ出してくるのか」ということからです。そういうところでフォレンジックは必要な技術になりますから。それを友人と研究し始めたのがきっかけです。

 アメリカでは数年前から、e-Discoveryと言われ、アメリカ合衆国の民事訴訟規則も変わりました。アメリカでは訴訟手続で電子情報を扱うためのルールもツールもずいぶん整備されましたが、日本ではまだまだです。関係企業については、関心は向上していますが、なかなか広まりません。多くの企業に関心を持たれるまでには至っていないといったところです。

情報を開示するということ

―最近はコンプライアンス(法令遵守)を欠く企業が増えていますが、企業内情報を公開していくことに関してはいかがお考えですか。

コンプライアンスについて語る町村氏
コンプライアンスについて語る町村氏
町村氏 コンプライアンスについてですが、談合などが摘発されるようになったのが、ここ十数年です。法律自体は昔からそんなに変わっていません。ところが、摘発例が増えて、世間の非難が集まるようになり、上場企業でさえも違法行為とその隠蔽が明らかになって倒産にまで至るところが出てきました。その結果、コンプライアンスを鼻にもかけなかった時代から、「それは非常に大事で、企業の存亡にも関わる」という認識に変わってきました。ただし、今でも目先の利益にとらわれて、その場しのぎの対応で傷を広げる例は後を絶たないわけですが。
 情報のデジタル化とネットワーク化で、情報の流通が速度を増してきたので、コンプライアンスはますます重要性を増しています。今ではコンプライアンスを無視した企業から破たんしていきます。ルールを守らない企業は退場していくということが、現実のものとなったわけですね。

―そうした中で、情報の管理が一層大切になるのですが、いざ、裁判になったときのために情報の管理をしっかりできるのでしょうか。

町村氏 管理といったときに、企業の方に「隠す」方の管理と勘違いされやすいのですが、「いかにして秘密を守るか」という管理ではなくて、「内容を適正に守るか」という実体的な管理が一番重要なポイントだと思います。
 要は「この情報を外に出しても大丈夫ですか。会社が耐えられますか」という具合にテストしてみて、「それはやってはいけない」ということを認識する必要があります。普通は部外秘とするような企業内情報でも、行政庁の検査が入ったときは、検査項目として、どうしても見せなければならないものがあります。警察からの照会も、「あれも見たい、これも見たい」となるものです。もちろん株主に対しても取引先に対しても、法令上、開示しなければならないこともありますし、法令に基づかなくても、例えば融資を受ける銀行から要求されれば洗いざらい出す必要があるわけです。
 このように、よそに見せなければならない情報が広がれば広がるほど、「内部に留めておく情報ではない」ということになります。それによって裁判の場合で開示を要求される範囲も広がります。

電子情報の取り扱い

―電子情報の取り扱いについてですが、今までプリントアウトしていたものが、電子化されると扱い方にどのような変化が起きるのでしょうか。

電子情報の取り扱いについて語る町村氏
電子情報の取り扱いについて語る町村氏
町村氏 現実には電子文書・電子情報があっても裁判所が電子文書として扱うということがおぼつかないのが現状です。
 紙媒体にしたものを証拠として扱うのと同じように、電子媒体の情報も扱うのが理想ですが、その域にはなかなか達しません。ただし電子カルテのように改ざんがシビアな問題になるものについては、元の電子情報をどうやって検証するのか、ということが大事になってきます。やはり電子情報を紙にするのではなくて、電子媒体のままでチェックすることが、裁判するうえで必要になってきます。

 アメリカでは先ほども言ったようにディスカバリーという制度がありますから、事前に情報をきちんと揃えて、相手に開示しなければなりません。電子情報でも同じで、しっかりと情報を開示するためにはデジタル情報をどう扱ったかということが大事になってきます。きちんとデータを揃えたということを自分で立証しなければいけないのです。これはけっこう重い負担です。今まで日本では、「ないものはない」と言ってきました。これからは「あることとないことの立証を自分でさせられる」ということになっていくかもしれません。

日本の情報開示の変化

―日本での情報開示において変化が見られるところはどのあたりでしょうか。

町村氏 最高裁の決定例を中心に開示すべき情報の範囲を広げていることが顕著だと思います。これは平成10年に法律が変わったことが大元の原因ですけれども、法律の運用面でも、拡大傾向にあります。
 大体私がこの問題について関心を持ち始めた25年程前は、非常に限定的にしか開示されないというものでした。ところが、今では原則と例外が逆になって、「原則として開示しなさい」となっています。例外的な場合は開示しなくてよく、その例外を広くとるか、狭く取るかが焦点になってきています。

―デジタル・フォレンジックが重要になってくるということですね。

電子情報の情報開示について語る町村氏
電子情報の情報開示について語る町村氏
町村氏 そうですね、電子情報を開示するなら、その正確性の立証にフォレンジック技術は重要な役割を果たすようになるでしょう。
 それから知財関係ですと、普通よりもさらに開示の方法を広げるので、代わりに営業秘密は厳重に保護しましょう、という制度が整っています。例えば開示すべきかどうかを審理するときに、相手方の関係者も交えて裁判官室で審理するインカメラ手続とか、刑事罰付きの秘密保持命令を発令するとか、証人尋問を非公開で行うとか、訴訟記録を非公開にするとかです。そうするとますます、裁判の中では明らかにしなければならない範囲が広がります。裁判が公開だということになると、そこに出すものをある程度限定せざるをえないわけで、公開の場合なら秘密保護の必要性がある証拠は出さないことになります。ところが、非公開の場合、多少の秘密であっても、「出しなさい」と、つまり開示の範囲が広がります。

―企業が、情報を開示する意識を変えていかなければなりませんか。

町村氏 外堀としては内部統制の強化があり、開示を迫られる場合が増えてきています。内部情報を開示することも、企業の意識自体に関わることになりますから、なかなか一朝一夕にはいきません。「まずいことが起こったときにどうするのか、今ここで黙っておけば何とかなるのではないか」とつい思いがちです。そうした意識や行動様式を変えていくのは難しいことだと思いますが、「今ここで隠したとしても、いずれはわかってしまう」という環境にもっていくことが大切なのです。そのあたりはバランスが必要なのではないでしょうか。法制度は、直接開示を命じるということよりも、情報開示を側面から促すような環境作りとして、間接的に整備されていくべきだと思います。

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