変化するメディア環境におけるデジタルコンテンツの未来とは:HH News & Reports:ハミングヘッズ

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金 正勲 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授に聞く
変化するメディア環境におけるデジタルコンテンツの未来とは

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授
金 正勲
「変化するメディア環境におけるデジタルコンテンツの未来とは」

 出版不況が騒がれる一方、Webの動画配信など新しいメディアが台頭するなど、メディア環境が変化する中、デジタルコンテンツはどのように発展し、普及していくべきか、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授の金 正勲氏にお話をうかがった。

研究を始めたきっかけ

―金先生がメディア産業やデジタルコンテンツについて研究を始めたきっかけ、また、現在注目しているのはどのようなことでしょうか。

金氏 私が最初、メディアという世界に照準をあてたのは、「現実とはどのように形成されていくのか」を考えたのがきっかけです。現実には2つの種類があって、1つは本当の現実、もう1つは人の頭の中でつくられた現実です。実際の人々の行動というのは、概ね後者の「現実の対する認識」に基づいて行われるものですが、その認識とはメディアによって大きく影響されるわけです。つまり、メディアは本当の現実と我々の間に立って、現実を解釈し、その解釈された現実を我々に伝えてくれる。我々はそれがあたかも本当の現実のように捉え、それに基づいて日常の言動を行うわけです。
金 正勲 慶應義塾大学准教授
金 正勲 慶應義塾大学准教授
 要するに、メディアは“現実”を作りだす力があると。この力は途轍もなく大きいもので、上手く使えば社会をよい方向に発展させる可能性がありますが、悪用すれば巨大なリスクをもたらす危険なものでもあります。そのパワーに気づいた時、この問題はもう少し深く考える必要があると思いました。そこでメディアの過去・現在・未来を研究するためにアメリカに大学院留学しました。最初は、新聞等のプリント・ジャーナリズム研究が中心だったのですが、メディア環境が急速に変化していたということもあって、いわゆるニューメディアに研究のフォーカスをシフトすることになりました。
 今私が最も興味があるテーマは、次世代の社会経済システムで、それを「創造社会(Creative Society)と捉えて研究を進めています。特に、これからの日本、中でも政治・行政、人材・教育、経営・経済、そして個人のキャリアを「創造性」という側面から捉え、各主体・領域の未来への対応戦略を考えることに軸にして活動しています。

マスメディア産業の変化について

 日本民間放送連盟は、「民放連の加盟社である201社のうち、92社が2008年度中間決算で経常赤字だった」と2009年1月15日に開催した定例会見で発表している。また、1997年以後、書籍の販売額の対前年伸び率がマイナスに転じているが、その理由としては、インターネット接続環境の拡大により、無料または低コストで情報が入手できるようになり、書籍の需要が減少したことが挙げられている。

―昨今のマスメディア産業の変化(新聞・雑誌の売上減、放送局の収入減、Web配信の発達など)についていかがお考えでしょうか。また、これからのマスメディアの再編についてご意見があれば、お聞かせください。

金氏 メディア産業は長いスパンで捉えると常にパラダイムシフトに匹敵する変革があります。短期的に見ると特定のメディアが支配しているように見えますが、実際は「コントロールのシフト」は常に行われていて、主役となるメディアは常に入れ変わっています。
 その変化のきっかけになるのは、通常新しい技術の登場です。一方で、既存の技術に基づいて成り立っている産業は、新しい技術の進出をできるだけ抑制したいというインセンティブ(動機付け)が働きます。
参考資料 マスメディア産業の変化について
参考資料 マスメディア産業の変化について
 しかし、時間の経過と共に技術はその変化のスピードを早め、それと連動した形で市場も変わり、ユーザの趣向も変わっていきます。そして国の政策もこうした技術、市場、そしてユーザの変化を受け、新しい状況に合わせた形で変わっていかざるを得なくなります。

 話をマスメディアに戻すと、質問の中でおっしゃられた傾向が続くとすると、マスメディアの主な収入源である「広告費を出すスポンサー側の意向」も根底から変わっていく瞬間は確実に訪れます。現にそういうことは既に起きていて、例えば放送局の広告がもつ広告効果と、ネットがもつ広告効果の相対的な影響力が変わってきています。特に、若いユーザのメディア消費においてネット系の新しいメディアの比重が高まってくると、当然ながらスポンサーは限られた広告費をどのメディアに割り当てるかを考える時に新しいメディアへの広告費シフトは合理的な選択となります。まだまだ絶対額としては圧倒的なユーザリーチを誇るマスメディアが大きいですが、成長率を考慮すると明らかにネット系メディアへの傾斜はもはや止められない傾向になっています。そうなってくると、マスメディア側としては従来の広告収入以外の広告外収入の比重をいかに高めていくか、が課題であり、現に経営戦略的にそれを打ち出してはいますが具体的にどうするか、となるとまだ手探り状態であるというのが実情ではないでしょうか。

 既得権と新勢力の対立構図というのは、日本に限ったことでもなく、そしてメディア業界に限ったことでもないですが、技術革新の変化が激しい今日のメディア産業においては特に顕著に見られる傾向です。米国でもグーグルのYouTubeに象徴される新しいメディアが登場し、既存のメディアも当初対抗路線で足並みを揃えましたが、ここにきてそうした協調路線も崩れていて、新しいメディアと共存協調モデルを模索する既存のメディアも増えてきています。日本の場合、残念なのは新しいメディアを推進する側のパワーが弱すぎると言いますか、新しいメディアが持つ価値を証明していないので、既存のメディアとしても共存協調モデルを模索したくてもなかなか身動きがとれない状況だと思います。その結果、既存のメディアとしては、いずれ変わらざるを得なくなるにしても、まだ変わらなくてもよいというスタンスをとっています。しかし、こうしたスタンスはメディア市場が国境によって明確に区分された時代に通用した考え方で、国境の問わないネット時代に入った今はこうしたスタンスは中長期的には大きな判断ミスだと思います。

日本ではまだまだ新しいメディアの勢力が弱く、
既存のメディアを脅かす存在ではないと語る金氏
日本ではまだまだ新しいメディアの勢力が弱く、
既存のメディアを脅かす存在ではないと語る金氏
 日本社会全体的に言えば、なぜ日本にはグーグルのように、古い事業者が妥協せざるを得ない状況に追い込み、新しいメディア秩序を作り出す事業者が生まれないのか、を考えることが重要だと思います。それはビジネスプラクティスな(ビジネスにおける実践性を重視した)問題なのか、制度の問題なのか、それとも教育体制の問題なのか。いずれにせよ、新しいことに挑戦する人材をどのように生み出していくかが重要で、そのためにも社会を人間の創造性に軸をおいた社会にしていく必要があると考えています。そうした本質を見極めるプロセスの中で、先ほど申し上げました「創造社会」というキーワードにたどり着いたわけです。

―やはりデジタル化の波は1つの大きな流れなのでしょうか。

金氏 デジタル技術は情報通信分野における近年の一連の技術革新を象徴する一つの事例です。デジタル化が進み、ネットワークのIP化が進んで、ブロードバンド化やモバイル化が進んでいく。またそれが「産業や社会の仕組み」を変化させ、人々のコミュニケーションの形態も変わっていく。こうした形で変化は領域横断的にそして連鎖的に起きてきます。その流れを止めようとするのは愚かなことで、それにどう順応するのか、いかにスマートに能動的に適応し、社会の発展につなげるのかが今問われていると考えています。

 こうしたデジタル化の波がコンテンツの生産、加工、流通、利用といったコンテンツ関連産業の一連の価値連鎖に変革をもたらし、社会の中での情報の流れや、コミュニケーションスタイルを変えていきます。それによって当然ながらビジネスも変わりますが、最終的には政治や行政も変わっていくでしょう。

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