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笠原毅彦 桐蔭横浜大学大学院法学研究科・法学部教授に聞く
裁判のIT化(サイバーコート)とは

桐蔭横浜大学大学院法学研究科・法学部教授
笠原 毅彦
「裁判のIT化(サイバーコート)とは」

目次

 「電子政府」「情報セキュリティ基本計画」など、日本の行政に関するIT化については昨今かまびすしいが、司法=裁判所のIT化はあまり進んでいないという。数年前から裁判のIT化(サイバーコート)を提唱してきた、桐蔭横浜大学大学院法学研究科・法学部教授の笠原毅彦氏にお話をうかがった。

「eラーニング」から始まったサイバーコート研究

桐蔭横浜大学大学院法学研究科・法学部教授 笠原毅彦氏
桐蔭横浜大学大学院法学研究科・法学部教授 笠原毅彦氏

―法律が専門である笠原さんが、裁判のIT化を研究するきっかけは何だったのでしょうか。

笠原氏 もともと大学時代からコンピュータが好きで、1980年代後半からパソコン通信で囲碁を打っていました。ここからあちこちのコミュニティに出入りしているうち、専門家が数十万人も集まって知恵を収集することのすごさに気が付いたのが、デジタルの世界にはまり込むきっかけでした。

 この「集合知」を、まずは大学に取り入れてみようと、eラーニングから始めたのです。1995年あたりからインターネットが一般の学生でも使えるようになったので、教育への本格利用を始めました。最初はゼミと私の講義でネットを使ってダウンロードしてもらったり、意見交換をしたり、チャットで質問を受けたりしていました。

 日本で一番インターネットを利用している教員だと自負していたのですが(笑)、2000年に米国の主だった大学と行った合同セミナーでハーバード大学の取り組みを聞き、ものすごいショックを受けました。 大学で出される課題やテストを、キャンパスにいる学生と同じように遠隔地へも対応して、遠隔講義と対面学習の区別をすでになくしていたのです。この時点で米国にいないハーバード大学在籍の学生もいました。教員がサイトを持ち、コンテンツの9割を学生と助手が作るということが全学的に行われていました。こちらは大学の中で私が1人で取り組んでいた程度でしたから、受けた衝撃は大きかったですね。

コートルーム21遠隔裁判
2002年の「コートルーム21」遠隔裁判実験。米国と英国(左奥、赤い背景の画面)、オーストラリア(右手前の画面)の3点をISDNで結んで行われた。(笠原氏提供資料より引用)

 3校目にWilliam&Mary大学へ足を運び、ここでもショックを受けてしまいました。この大学では州裁判所全国センター(National Center for State Courts)と、1993年から「コートルーム21」という共同プロジェクトを組み、英語圏を結んだ裁判のIT化を進めていました。 大学や司法でITを活用する動きが全学レベル、裁判所レベルで行われている米国の実態を見て、私が「日本でもサイバーキャンパスとサイバーコートに取り組むべき」とあちこちで訴えていたところ、2002年から大学と企業が協力して「サイバーキャンパス・サイバーコートプロジェクト」を立ち上げることになり、その後遠隔裁判などの実験を3年間行いました。

サイバーコートへの具体的な取り組み

―サイバーコートプロジェクトにはどういう姿勢で取り組まれていたのでしょう。

笠原氏 私が取り組んでいたeラーニングもそうなのですが、サイバーコートプロジェクトの基本方針として、まずはオープンソフトを使用することを挙げています。市場のソフトを使用すると、桐蔭の学生は使えるけれども他大学はライセンスの関係で使用できない、といった問題が生じてしまうのです。
 また、できる限りWEBベースでの構築を行い、デファクトスタンダードの技術を採用して、特定企業のソフトウェアに依存するデータを作らない。さらに互換性を確保する、こうしたことを基本方針としました。必然的に市販の製品を組み合わせるのではなく、企業の研究所と共同研究の形をお願いする事になりました。この方針を技術系の人が聞くと「このころから取り組んでいたのか」と驚かれます。また、政府が「電子政府をオープンソフトで」という方針を打ち出したことも、サイバーコートプロジェクトには追い風になりました。

サイバーコートプロジェクトで2003年に行われた接続実験。デジタル証拠共有ソフト(画面左)を利用、ドイツのチュービンゲン大学(右上)と桐蔭横浜大学の模擬法廷(画面中央上下、画面右下)をネットで結んで行われた。

―具体的な研究成果はどのようなものだったのでしょうか?

笠原氏 サイバーコートプロジェクトでは、2002年9月の段階でIPネットワークを利用した遠隔模擬裁判のためのテレビ会議システムを、共同開発して作り込みました。その際に遠隔同時通訳という形で、大学構内の3点を結んで裁判を行うという実験をしました。

 翌2003年に、デジタル資料を共有するシステムを組み込んで実験を行いました。デジタル画像、例えば証人尋問ですと、カメラを5台で原告・被告・裁判官・証人・通訳のそれぞれを撮影したデータをMPEG4へ変換してサーバに蓄積、同期を取ってIPストリーミングで配信できるところまで作り込みました。
 要するに証人尋問その他のデジタル画像による記録を、遠隔裁判で撮ることができるシステムを作ったということです。

 音声認識による自動書記システムも、一応組み込んだのですが、結局実験しませんでした。いずれ動画を動画のまま記録して再利用する時代になるだろうということと、現在のソフトでは誤変換が多くて完全な記録は作れないという問題があったためです。動画の目次としては使えますが。
 デジタルの動画による裁判記録の自動作成を2003年3月に行い、さらにこれを再利用する形で、サムネイル(目次付け)ソフトを付けたり、コメントを付けられるソフトを組み込もうとうしているところで終わったというところです。

 セキュリティに関しては、2004年10月に本人認証用のサーバを組み込み、電子署名の認証局用のサーバを立ち上げました。将来、学生証もICカードの中に秘密鍵や公開鍵・証明書が入り、さらに電子署名がなければ受け付けないということが当たり前になると考えたからです。

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