品質向上とコスト削減を両立させる「品質コストマネジメント」とは:HH News & Reports:ハミングヘッズ

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伊藤嘉博 早稲田大学商学学術院教授に聞く
「品質向上とコスト削減を両立させる『品質コストマネジメント』とは

早稲田大学商学学術院教授
伊藤 嘉博
「品質向上とコスト削減を両立させる『品質コストマネジメント』とは」

 長引く不況であらゆるものが売れなくなり、売上向上による収益改善が困難になった今、企業活動においてあらゆる角度からコスト削減が強く求められている。その一方、市場規模が縮小し競争がこれまで以上に激化しているため、コスト削減だけを優先して製品やサービスの品質を落とすことは難しく、むしろ高める必要に迫られているのが実情だ。

 そんな中、品質向上とコスト削減を両立させ、利益を生み出すための「品質コストマネジメント」が、近年日本の企業でも注目され始め、導入されるケースが増えてきている。日本における同分野研究の第一人者、早稲田大学商学学術院教授の伊藤嘉博氏にお話をうかがった。

「品質コストマネジメント」の概念

 製品やサービスを消費者の視点で見た場合、一般的にクオリティが高いものは価格も高く、反対にクオリティが低いものは価格も安い傾向にある。これを企業側から見ると、クオリティ=品質を高めると原価=コストは上がり、逆に品質を下げればコストは下がる、ということになる。
 これに異を唱え、品質向上とコスト削減の両立を実現すべく生み出されたのが、「品質コスト」という概念だ。そして、この「品質コスト」を会計と実務の両面から管理=マネジメントするのが、「品質コストマネジメント」と位置付けられている。
早稲田大学商学学術院教授 伊藤嘉博氏
早稲田大学商学学術院教授 伊藤嘉博氏

―伊藤先生が「品質コストマネジメント」に興味を持ち、研究を始められたきっかけは何だったのでしょうか?

伊藤氏 私が成蹊大学の助教授になったばかりの1988年頃、管理会計の新しいトピックスが米国でいろいろ囁かれていたのですが、その中から私が興味を抱いたのが「品質コスト」でした。それが、品質管理という実務に原価管理という会計的手法を融合させてマネジメントされていることを、私は非常に新鮮に思ったのです。

 そうして私は過去に行われた議論の調査から始めたのですが、「品質コストマネジメント」が日本でなかなか受け入れられない実情を知り、日本の組織に合った「品質コストマネジメント」のあり方を探るべく、研究を進めていきました。


―「品質コストマネジメント」を採用する企業の現状はいかがでしょうか?

伊藤氏 長引く不況の中で、「品質コストマネジメント」を採用する企業は確実に増えていきました。しかし今日でもなお、品質向上とコスト削減は両立しないという認識を持つ経営者が、日本には多いと私は考えています。

 「品質コストマネジメント」においても、短期的にコストを下げて、差し当たりの利益を増やそうとした場合は、どうしてもある程度品質を妥協せざるを得なくなってしまいます。しかしながら長期的に取り組めば、品質向上とコスト削減は相反する関係にはならず、むしろ品質を高めることでコストは下がっていくのです。

 とはいえ今の日本の経営者には、長期的なスタンスで経営に取り組む余裕がほとんどなくなってきている。そのことが、品質向上とコスト削減を両立させるという「品質コストマネジメント」の特長が正しく認知されず、また十分に普及しない一因になっていると私は思います。

品質向上とコスト削減を両立させるためには

 「品質コストマネジメント」において実際に管理される「品質コスト」は以下の4種類に区分される。

・「予防コスト」:品質上の欠陥が発生するのを早い段階から防止するための原価
(例:品質管理、工程管理、品質計画、品質訓練など)
・「評価コスト」:製品や部品の品質を評価して品質レベルを維持するための原価
(例:購入材料の受入検査、製品検査、出荷前の再試験、納入先での試験など)
・「内部失敗コスト」:品質問題が製品出荷前に発見された場合の処理に関する損失
(例:スクラップ、再作業、材料の調達、工場との技術的交渉など)
・「外部失敗コスト」:品質問題が市場で発生した場合の対応や処理に関する損失
(例:苦情処理、製品サービス、製品リコールなど)

 そして、「品質コストマネジメント」に長期的に取り組むことで、品質向上とコスト削減を両立できるようになるのは、この4種類からなる「品質コスト」の中身に、大きく分けて2つの変化が生じるからだという。

―「品質コストマネジメント」を長期的に取り組むか短期的に取り組むかで、品質向上とコスト削減を両立できるかどうかが変わる、ということですが、その理由は何でしょうか?

伊藤氏 短期的な形で品質向上とコスト削減の両立(=「コストミニマム・レベル」)を追求していくと、ある程度品質問題による「失敗コスト」を許容しなければならない。つまりそれ以上「予防・評価コスト」をかけ品質を向上させても、その効果がすぐには現れないため、かえって損をしてしまうのです。(「短期的品質コストモデル」図参照)
短期的には品質向上とコスト削減は必ずしも両立しないが、長期的にはそれが両立する (出典)Schneiderman A.M.,
  “Optimum Quality Costs and Zero Defects ; Are They Contradictory Concepts?,”Quality Progress, November 1986
短期的には品質向上とコスト削減は必ずしも両立しないが、長期的にはそれが両立する (出典)Schneiderman A.M.,
“Optimum Quality Costs and Zero Defects ; Are They Contradictory Concepts?,”Quality Progress, November 1986

 対して長期的に「品質コストマネジメント」に取り組んだ場合は、まず「予防・評価コスト」をかけて品質管理を上手に行うことで、時間の経過とともに組織構成員の習熟度が上がり、それに応じて必要な人材教育や品質評価テストの回数も減ります。そのため、品質向上に対する「予防・評価コスト」の上がり方も、短期的な場合より緩やかになります。

 その一方で「機会損失」と呼ばれる、品質問題の発生により失った本来得られるべき利益が、「失敗コスト」を大幅に増大させることになります。リコール隠しや食品偽装などの不祥事を起こした企業を例に挙げるまでもなく、品質問題がユーザに与えるマイナスイメージは非常に深刻で、そのことによる不買運動などの「機会損失」が10年前後という長期間に渡り続くためです。

 ですから短期的な「失敗コスト」に対し、長期的に品質問題を放置した場合の「失敗コスト」はとてつもなく金額が大きい。例えば短期的な「品質コストマネジメント」の期間を1年間、長期的なものを10年間とした場合、長期的な「失敗コスト」の額は単純に短期的な「失敗コスト」の10倍とはならず、さらにその10~20倍に達してしまいます。

 その結果、長期的に取り組む「品質コストマネジメント」では、品質が極限まで高まり、品質問題=「失敗コスト」がゼロになった時点で、初めてトータルの「品質コスト」が最小になります。つまり、品質を高めれば高めるほどコストは下がるのです。(「長期的品質コストモデル」図参照)

「『品質コストマネジメント』が効果を発揮するにはある程度の期間が必要」と語る伊藤嘉博氏
「『品質コストマネジメント』が効果を発揮するにはある程度の期間が必要」と語る伊藤嘉博氏

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伊藤嘉博氏に尋ねた「品質コストと虚偽表示」(2014/1/6)

伊藤嘉博氏 よくわかる品質コストマネジメント

第1回 いまなぜ品質コストなのか(2011/3/22)

第2回 品質コスト活用の勘どころ(2011/4/11)

第3回 隠れた品質コストを「見える化」する(2011/5/16)

「伊藤嘉博氏が『品質コストマネジメントの活用』について講演」セミナーレポートはこちら


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