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公認会計士松澤大之
内部統制で変革すべき
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石井徹哉 千葉大学教授に聞く「犯罪・捜査のIT化に伴う刑法のあり方とは」

千葉大学教授
石井 徹哉
「犯罪・捜査のIT化に伴う刑法のあり方とは」

不正アクセス禁止法の役割

―その情報保護を行う比較的新しい法案として、不正アクセス禁止法*2がありますが、それについていかがお考えでしょうか。

不正アクセス禁止法について語る石井氏不正アクセス禁止法について語る石井氏
石井氏 不正アクセス禁止法はIDやパスワードで制約している情報へアクセスした場合に適用されます。個人情報漏洩事件のACCS事件*3で有罪判決が出ましたが、ネットワーク上の簡単にアクセスできない場所へ情報を置いておけば、物理的にも客観的にも、管理者側の「アクセスされたくない」という意思が表れていますよね。そこにアクセスして個人情報を盗んだということが、あの事件が有罪判決に至った大きな理由です。

 ただこの法案は、情報へのアクセスだけを問題にしているので、個人情報漏洩については問題にしていません。つまり現行法では、個人情報データを盗むという行為を処罰する規定は何もないわけです。企業においてそれを営業上の秘密という扱いにするならば「不正競争防止法」に違反する可能性がありますが。もしその顧客名簿が紙に印刷されて、会社の棚に置いてあるのを空き巣が盗んだ場合には、窃盗で取り締まることができます。しかしサーバに侵入して盗んだ場合には、せいぜい不正アクセス禁止法でしか取り締まれない。本当はアクセスしたことではなく、情報を盗んだことこそが処罰されるべきなのです。その辺りのバランスが本当にそれでいいのか、情報保護として果たして適正なのか、このような現行法のあり方自体も見直す時期にきていると思います。

情報化社会の中での刑法の役割

―ご専門の刑法の分野からは、ネットワーク社会に対してどのような策を講じるべきだと思いますか。

刑法の役割について語る石井氏
刑法の役割について語る石井氏
石井氏 刑法というのは、結局、社会的な取り組みが失敗した場合の最後の方法なのです。刑法があったからといって殺された人が生き返るわけではない。ネットワーク社会においても同じで、行われた犯罪に対して処罰するための議論はありますが、犯罪を防ぐためには刑法の世界ではなく、社会的な政策に注目するべきだと思います。

 「状況的犯罪予防」というのですが、犯罪が起こりにくいような環境を模索することが大切です。空き巣に入られない対策を講じるように、情報に関した犯罪を行いにくい環境を作る。そのためには情報セキュリティという情報技術の分野が有用なわけです。

 だからといって、空き巣に入られたくないと、いわゆる城塞都市のような、部外者は一切入れないようなものを作って住むのが正しいのかというと、もちろんそれが一番安全なのでしょうが、果たしてそういう生活が本当にいいのかという疑問は残ります。やはりある程度世間に開かれた環境で、いかに住みよい環境を作っていくかが重要です。使いやすさを含めた上でのセキュリティ対策を技術的な課題も含めて考えていく、刑法はそのような「状況的犯罪予防」をサポートする存在になっていければいいと思いますね。


※このインタビューとセキュリティプラットフォームは一切関係ありません。



注釈

*1:Winny
P2Pの技術を利用したファイル交換ソフト。ネットワークで繋がっているPC間での、ファイルの検索、
ダウンロード、アップロードが自由に行える。

*2:不正アクセス禁止法
ID・パスワードの不正な使用や、ネットワークを通じてアクセス権限のないコンピュータにアクセスすることを犯罪と定義する法律。1999年国会において可決・成立され、一部を除き2000年2月から施行された。

*3:ACCS事件
元京都大学研究員が、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)のサーバに侵入し、1184人分の個人情報を不正に引き出した事件。元研究員はACCSのWEBサイト上にあったCGIプログラムの脆弱性を指摘し無罪を主張したが、東京地裁は不正アクセス禁止法違反にあたるとして有罪判決を下した。




【石井 徹哉(いしい てつや)氏 プロフィール】

【現職】
千葉大学大学院人文社会科学研究科教授(社会科学専攻)、同大学法経学部兼務

【略歴】
1993年 早稲田大学大学院法学研究科公法学専攻博士後期課程満期退学
その後、日本学術振興会特別研究員、神奈川大学講師、法政大学講師、奈良産業大学法学部助教授を経て現職。

【主な研究分野】
刑法における主観的帰属に関する問題を主に研究。近年では情報ネットワークにおける刑事的規制についても研究を行い、デジタル・フォレンジックの分野において、技術系研究者との共同研究を行っている。

【所属学会】
刑法学会、情報ネットワーク法学会(副理事長)、情報処理学会、情報通信学会、デジタル・フォレンジック研究会(理事)、IFIP WG11.9(Digital Forensics)会員

【その他社会的活動】
NTTコミュニケーションズ(株)インターネット法制度研究会委員

(掲載日:2008年9月17日)

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