医療におけるデジタル・フォレンジック導入の必然性とは(後編):HH News & Reports:ハミングヘッズ

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秋山昌範 マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院客員教授に聞く「医療におけるデジタル・フォレンジック導入の必然性とは(後編)」

MIT スローン経営大学院客員教授
秋山 昌範
「医療におけるデジタル・フォレンジック導入の必然性とは(後編)」
~医療システムにフォレンジックを機能させるということ~

秋山昌範 マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院客員教授に、前編では医療の現場にマーケティング手法を用いることの有用性を語っていただいたが、後編では医療の現場でフォレンジックが実際に活用されている例について、お話をうかがった。


いかにデジタル・フォレンジックが必要か

―デジタル・フォレンジックが医療の現場にいかに必要であるか、お話ししていただけますでしょうか。

薬のシリアル番号について語る秋山氏
薬のシリアル番号について語る秋山氏
秋山氏 私が患者、もしくは患者の家族であったらどんなものが欲しいかということを考え、バーコードで薬を管理し、患者の取り違えや投薬ミスを防ぐ医療システム*1を作りました。いつも私が言いますのは、「我が子が患者だったらどうして欲しいか」ということです。それに尽きます。そのために、何でもかんでも厳しく情報開示をしろというのではなく、いざとなったら情報開示できるようにしておくことはとても重要です。

 そして、さらに言うならば情報開示すら必要のない仕組みを作ることが最も重要なのです。そのためにはデジタル・フォレンジックは欠かせないと思っています。医師と患者の信頼関係を維持しなければなりません。本当は維持すると言いたいのですが、今はあまり維持できてないので醸成すると言った方がいいかもしれません。「醸成」とは育て、はぐくむという意味です。

薬にシリアル番号を

シリアル番号をつけた薬の流れの動向
図表1 シリアル番号をつけた薬の流れの動向
(クリックすると拡大します)
秋山氏 このように(図表1参照)私が開発した医療システムではすべての薬にシリアル番号をつけ、その動向を管理しています。例えばこのデータからは2004年の7月から2005年の3月31日までに、112万1358本の薬が動いていることがわかります。こういった管理が実際にできるということです。そしてこれはリアルタイムで薬の動きを把握しないと話にならないわけです。

 なぜかというと、急性期の患者さん、重症な患者さんだと今日と明日で容態が変わるからです。今日と明日で容態が違うのに、今日予定しているのと同じ注射を明日したら危険です。
 また、多くの医療現場では、薬の投与に関しては伝票の情報を電子入力しているだけです。私の開発した医療システムはすべての薬の動向を人間の行動と合わせて、管理・把握しており、何か事故があったときには強い証拠となります。今行われている、多くの医療現場での電子化は、いわゆる予定入力であって実施入力ではないのです。そうすると、フォレンジックだろうが何だろうが意味がありません。所詮、伝票の世界ですから、フォレンジックにする必要性はありません。

―なるほど。確かに医療事故を防ぐには重要な要素ですね。

薬のシリアル番号で医療の各部門の流れを把握
図表2 薬のシリアル番号で医療の各部門の流れを把握
(クリックすると拡大します)
秋山氏 こちらをご覧いただきたいのですが、(図表2参照)これは各部門のシステムです。ドクターのシステム、ナースのシステム、リスクマネジメントのシステム、物流のシステム、全部に通し番号をつけたものです。すなわち、薬のシリアル番号と合わせて、最後に紐付けすることができます。それぞれ分散したシステムですが、全部の薬と各部門の動向を結びつけることによって、1つの薬の流れを把握することができるのです。全部違う番号のため国民総背番号と一緒です。いわば注射総背番号なのでこんなことができるのです。

 そうすると何がわかるかというと、例えば「この薬は注射されなかった」ということがわかるのです。これはドクター、ナース、物流といったすべての部門の薬に対するアクションを把握していないと分かりません。そうしなければたまたまデータが入っていないだけかもしれないということになる。薬を混ぜた段階で中止になったのか、混ぜる前に中止になったのかということまでわかります。

無駄なコストをなくすために

薬の混中前中止の分
図表3 薬の混中前中止の分(クリックすると拡大します)
秋山氏 一方、このリスクマネジメントのシステムは私が考案し普及したのですが、バーコードでスキャンする方式で、仮にミスがあってもアラームで知らせてくれるので、医療事故が防げます。このシステムは薬に対する1つ1つの動作をリアルタイムで全部チェックしています。そのため例えば中止になった注射があれば、その注射薬を混ぜる前に「違いますよ」と教えてくれるのです。
 つまり、必要のない薬品は返品して再利用することができるのです。すなわち、コストが浮くのです。浮いたコストは注射だけで年間で1億円にもなります。1年間の注射費用は約11億円なのですが、このシステムがないと余分に1億円かかってしまうことになります。注射だけで5年間で5億円、その他費用も含めると5年間で20億円くらいのコストが浮くのです(PC画面を見て:図表3参照)。 このシステムを導入することの方が、果たして高くつくと言えるでしょうか。世の中ではそんなことは全然議論にならない、なぜかというと世の中でこのシステム以外で有用に使えるものがなく、大手メーカーにはこのようなシステムすらないからです。

―それだけのコストが今まで無駄になっているのは、驚きですね。

アドボカシーマーケティングについて語る秋山氏
アドボカシーマーケティングについて語る秋山氏
秋山氏 私が「Trust(信頼)」を主張していることの本当の意味はここにあります。アドボカシー*2マーケティングというのが私たちのチームのグレン・アーバン教授の持論ですが、大事なことは真に患者サイドに立つことなのです。もちろん品質とCS(Customer Satisfaction 顧客満足度)は大事です。しかし、一番大切なのはアドボカシーなのです。

 例えば、患者相談室で働いている人は病院の給料で働いているわけですから、病院サイドに立っているわけですよね。それはアドボカシーとは言えません。本来の発想から言うならば中立的な立場の人間でなければ意味がありません。病院と戦うような人以外でないといけないわけです。ただ同じような発想ですが、例えば、モスバーガーの店舗には、その店で使用されている野菜の産地と生産者名の情報を、希望すればレシートに印字してくれます。この情報はWEBサイトでも地域ごとに表示されており、消費者による照会が可能なのです。

 モスバーガーのこういった取り組みは、患者相談室も見習わなければなりません。要するに透明性の覚悟です。このような透明性が、今の病院にもっとも求められていることです。私が開発した医療システム以上に透明性を上げる手段は残念ながらまだ存在していないと思います。しかしこのようなシステム(薬の流れに対する網羅的な履歴)があるからこそ、医療行為を信じてもらうための説明の手間が省け、その分診療行為に力を注ぐことができるわけです。

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