インタビュー 天声人「碁」 コンピュータ囲碁の地平線

1953年東京都生まれ。1980年東京工業大学工学部情報工学科修了。2009年にZenの開発者でフリープログラマの尾島陽児氏と「チーム DeepZen」を結成。2010年4月からコンピュータ囲碁フォーラム理事。

インタビュー(1)

「チーム DeepZen」代表・加藤英樹氏に聞く

天声人「碁」 コンピュータ囲碁の地平線

2013/7/4  1/3ページ
チームDeepZen 加藤英樹氏 コンピュータ相手に勝つ余地は、
人間にはまだまだあります

 2013年のコンピュータと人間の対決は世間の注目をこれまでになく集めた。将棋は「電王戦」で、コンピュータ側が3勝1敗1引き分けで勝利。囲碁も二十四世本因坊秀芳の石田芳夫9段に4子ハンデで1勝1敗とした。

 コンピュータの実力、ホントのところはどれくらいあるのだろうか。コンピュータ囲碁のユニット「チーム DeepZen」の代表として世界大会などに参加してきた加藤英樹氏に聞いた。

現在のコンピュータ囲碁・将棋

―将棋では電王戦が行われ、囲碁でも電聖戦が行われました。電王戦、電聖戦を振り返ってどんな感想を持ちましたか。

加藤氏:GPS将棋(東京大学の教員・学生が作った将棋用プログラム)と三浦先生(三浦弘行8段)の勝負、あの対局は三浦先生が少し戦略を間違えていました。もっと手広い局面にすべきだったと思います。GPS将棋から一方的に攻められてしまいましたが、三浦先生にも攻めがある形にしておくと、GPS将棋が読まなければいけない手は倍に増えます。そうすることで、GPS将棋側の1手毎の読みの深さは浅くなるんです。


―囲碁の場合はどうなのでしょうか。

加藤氏:2012年の11月にZenは蘇耀国8段らプロ棋士3人に6戦6敗しました。あの時は蘇8段が「迷った時は複雑になる方を選ぶ」という戦略を立てたんです。こうした戦略を実行するのは素人には無理ですが、プロの場合はこのような形でコンピュータを弱くさせることができます。


 GPS将棋開発者の金子さんも言っていましたが、ソフトの強さは1000局、最低でも500局対戦させないと分からないんですね。同じプログラムを対局させても10回対戦して8勝2敗になることはざらにあります。プログラムを改造して、改造前のプログラムと対戦させてみる。最初はかなり勝つのですが、対局数を増やしていくとそうでもなくて、ぬかよろこびしたことは結構あります(笑)。

2009年5月のコンピュータオリンピック囲碁部門でZenは初参加・初優勝を果たす(写真中央が加藤氏)
2009年5月のコンピュータオリンピック囲碁部門でZenは初参加・初優勝を果たす(写真中央が加藤氏)

 Zenは1週間程度かけて約2000局テストしています。2000局やると、仮に勝率が50%だとした場合、レーティングでいうと±20の誤差程度に収まります。ちなみにZenの実力は、KGS(囲碁の対戦サイト)のレーティングで「5d」(日本のアマ7段相当)程度です。


―2012年3月に武宮(正樹)9段に「Zen」が置き碁(ハンデで先に石を置くこと)4子で勝ちました。

加藤氏:置き碁をする場合、プロ棋士の戦い方にも左右されますね。男性プロ棋士の場合、9段クラスになると本気できません。そもそも、置き碁の時点でプロに「本気を出せ」という方が失礼ですからね(笑)。逆に、女性の場合は置き碁でもしっかり打ってきます。Zenも2012年6月に、台湾の女性プロ棋士・黒嘉嘉6段に4子の置き碁(4つ石を先に置く)で負けています。


―Zenの対戦で世界を飛び回っていらっしゃいますが、加藤さんがコンピュータに触れたのはいつ頃からなのでしょう?

加藤氏:高校のころまではハードウェアが大好きでしたね。簡単なラジオや、ハム(アマチュア無線)の雑誌を読みあさっていました。中学1年の時に秋葉原でゲルマニウムトランジスタを買ってきて「加算器」を作ったり、中学3年の時にはニキシー管の時計を作ったりしていました。コンピュータも作りましたが、ちゃんと動かなかったですね。


 ソフトウェアに触れたのは、大学に入ってから。プログラムを組んだミニコン*1(ミニコンピュータ)は10種類くらいありましたね。ちょうど色々な研究室にミニコンが入っていく時代だったんです。当時のミニコンにはメーカー製のコンパイラやアセンブラはあったんですけど、使いづらいんですね。それでミニエディタを移植し続けてきました。卒論はコンパイラだし、完全なソフト屋さんです。

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