ビッグデータに必須!“数学脳”の鍛え方
~世界と戦える人材育成術~
新井紀子 国立情報学研究所教授
2013/4/11  1/3ページ

ビッグデータを分析する「データサイエンティスト」という職種が注目を集めている。データを分析するスキルや、どのようなデータを集めてくるか、というセンスが必要になる。だが、こうした社会の流れと逆行するような「データ」が出てしまったのが、2011年に日本数学会が実施した「大学生数学基本調査」(以下、基本調査)だ。

 ビッグデータの使い方が企業の死活問題となりうる現代では、文系・理系を問わず「数学抜きで語れない」と話すのは、国立情報学研究所の新井紀子教授。ビッグデータを活用でき、なおかつ世界に通用するビジネスマンになるために必要な“数学脳”とは? 基本調査を踏まえ、入試や教育のあり方から、数学な苦手という文系人間への「処方せん」まで、解説していただいた。

国立情報学研究所 新井紀子教授
国立情報学研究所 新井紀子教授

如実に表れた「数学力」の低下

―2013年3月に、基本調査の後に行われた「フォローアップ調査」の結果が公表されました。

新井氏:これまで日本人は「計算問題や決まりきった公式の当てはめには強いけれども、論理的思考や応用に弱い」と言われてきました。そこで2011年の基本調査では、数学的な論理力を使って、物事を正しく判断できるかということに焦点を当てたわけです。


 ところで、本当に決まりきった問題には日本人は強いのか。それを見るために行ったのが「フォローアップ調査」でした。この調査は「平均を求めなさい」「2次関数の頂点を求めなさい」という、いわゆる典型的な試験問題の形式にしました。調査の対象は、前何に基本調査を実施した同じ大学、同じレベルのクラスをピックアップして行いました。これによって、計算や公式の暗記による「見かけの学力」と、論理的な思考による「真の学力」の差を見ようということだったのです。


 結果から言うと、「フォローアップ調査」も結果はあまりよくなかったのです。「1組は20名で平均点は12.3点、2組は30名で平均点は14.8点でした。1組と2組全体の平均点を計算しなさい」という問題の正答率は68.5%(補正後は60.2%)しかなかった。


 相当の数の大学生が「(12.3+14.8)÷2=13.55」という誤った式を立ててしまったのです。「典型的な計算問題や公式暗記には強い」という日本人の神話は崩壊しつつあるようです。


―入試を難しくすればいい、というわけでもなさそうです。

新井氏:大学入試では、合格者数が大学・学部ごとにあらかじめ決まっていますから、単に大学入試を難しくすると、合格者の平均点が下がるだけなんですね。


 「大学自体を少なくするべきだ」という意見もありますが、高等教育を受けていない人が割合として増えた時、単に労働生産性が下がって日本の国際競争力が下がるだけかもしれません。私は、どちらも解決策にはならないと思います。

今の数学は「明治の遺物」だった

―数学の教え方に問題があるのでしょうか。

新井氏:今の算数・数学の教え方は、明治時代の数学教育を踏襲しているんですね。明治時代は、殖産興業を担う工学系人材、それも当時の先進国の技術を正確に真似するための人材や、軍隊の工兵を1日も早く育成しなければならなかった。それを最も効率よく進めるための数学教育だったんですね。


 ですが、日本自体が先進国になり、労働賃金も高くなったとき、そのモデルは通用しなくなった。本当に新しい問題を見出し、数理的に解決できる人材が必要になったんですね。新しい問題といっても難しい定理の証明ということではないんです。具体的な問題、在庫管理や物流システムなど、国内と海外によってパラメータが異なるなかで、数理的に解決できるはずのことがたくさんある。それが解ける人材がいれば、生産性はまだまだ向上する。


 ですから、文系の人にこそ、数理的なリテラシーが高まってほしい。そうすれば、世界の市場で戦える文系人材になると考えています。


 しかし、こうしたことを考えた数学カリキュラムに中高がなっていません。関数や統計を教えないまま大学に入ってしまう。大学でも、文系では数学が科目にあったとしても大人数の講義形式で、「自分が営業マンになった時に使えるか?」ということがわからないまま、社会に出てしまうことになります。これは教育投資として効率が良くないと思っています。

>>数学で『仕組みを考える』体質をつくる

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