特集 最先端医療はどう“効く”のか?
がんワクチン・陽子線治療・人体通信網(BAN)の夢と現実
2012/12/10  2/4ページ

2012年10月、作詞家のなかにし礼氏が食道がんを治すために受けた「陽子線」治療は、なかにし氏自身が治療法をメディアで伝えたこともあって、かなり注目を集めた。なかにし氏がテレビ出演した日、同じ治療をしている国立がん研究センター東病院のもとには100件近い問い合わせがあったという。

 陽子線治療は「放射線治療」の1つだ。夢の治療と言われている陽子線や重粒子線など、放射線を用いたがん治療の最前線を訪ねた。

注目される陽子線・重粒子線は? がん放射線治療


 がん治療の1つである放射線治療は、DNAを破壊する放射線の力で、外科手術を用いずにがん細胞を破壊するものだ。現在、陽子線のほか「重粒子線治療」と「IMRT(強度変調放射線治療)」の3種類が、放射線治療の最先端と言える。この陽子線治療とは何なのだろうか?


 陽子線治療は、重粒子線治療と合わせて「粒子線治療」と呼ばれる。通常使われるX線と異なり、陽子や炭素原子などの粒を光の速さ近くまで加速させてがん患部に照射するものだ。

近未来を思わせる陽子線治療室。写真中央上部の黒い四角の部分から陽子線が照射される(国立がん研究センター東病院)
近未来を思わせる陽子線治療室。写真中央上部の黒い四角の部分から陽子線が照射される(国立がん研究センター東病院)

 陽子線の特徴は、体に入るまでは放射線の影響が小さく、体の中のがん細胞のところで急激に線量が上がり、その後は体を突き抜けずに止まるところ。がん以外の正常な細胞の放射線による負担が、X線に比べてはるかに低く抑えられる。治療できるがんは、食道がんを始め、前立腺がん、肺がん、脳腫瘍などだ。


 現在7ヶ所ある陽子線治療施設は、それぞれ「得意な(がんの)部位がある」と報じられている。同じ機械を利用しているにもかかわらず、施設によって差が出るのというのはどういう理由からなのだろうか。


国立がん研究センター東病院
秋元哲夫氏
国立がん研究センター東病院
秋元哲夫氏
 

 「病院の成り立ちや時代の変遷ですね」と言うのは、国立がん研究センター東病院 粒子線医学開発分野長の秋元哲夫氏だ。


 「がん細胞への集中性が高い陽子線は、前立腺がんや肝臓がん、初期肺がんを多く治療していました。食道がんが得意な施設というのは、もともと食道がんの患者さんを化学療法で治療を行ってきた病院です。もともとがんに対するノウハウが蓄積されていたから、『得意』なという表現がなされたのでしょう」(秋元氏)。これ以外にも、陽子線治療の専門施設もあり、こうした施設の環境が治療可能な部位の差につながっているという。


 陽子線治療では、転移したがんは原則的に治療の対象外になってしまっている。だが、「転移したものでも、例えば大腸がんが肝臓や肺に1ヶ所、というものであれば治療可能な場合もあります。まずは相談してみて下さい」(秋元氏)。


 陽子線治療施設は現在も3施設が建設中であり、2014年に稼働する陽子線治療が可能な施設は11にものぼる。


重粒子線はさらに強力


 陽子線と同じ部類になる「粒子線治療」で、現在国内3ヶ所で治療が実施されているのが「重粒子線治療」だ。こちらは、陽子の12倍の質量をもつ炭素イオンを用いて治療が行われる。

重粒子線治療施設・HIMACの施設。サッカーコート約1面分の広さがある 提供:放射線医学総合研究所
重粒子線治療施設・HIMACの施設。サッカーコート約1面分の広さがある 
提供:放射線医学総合研究所

 重粒子線も陽子線同様に、40年以上前から「がんの部分に線量を集中できる」という特性は分かっていたという。しかし、CTなどがなかった当時は活用する機会もなく、重粒子線についての研究は、1990年代初頭に米国は手を引いていた。日本ではその後も研究が続けられ、1994年に千葉県千葉市の放射線医学総合研究所(放医研)で治療が開始された。


放医研・重粒子医科学センター長
鎌田正氏
放医研・重粒子医科学センター長
鎌田正氏

 「陽子線よりも粒子が重い分、効果が大きいです。1994年から治療を実施して、2012年の10月で治療者数は7000人を超えました」(放医研・重粒子医科学センター長の鎌田正氏)。重粒子線は、陽子線の力では手ごわい骨肉腫など骨や筋肉のがんにも効果があるという。


 切らずに治す、陽子線と重粒子線治療。しかし、気になるのはその治療費だ。

>>「夢の治療」は300万円!

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