はやぶさ60億キロの軌跡
奇跡を支えた通信機能に迫る
2011/11/14  1/3ページ

2010年。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した小惑星探査機「はやぶさ」の往復60億キロ、7年にわたる旅路とその奇跡的な帰還に日本中が沸き、熱狂した。3億キロも離れた衛星の物質を持ち帰っての帰還は、宇宙事業に対する注目度を劇的に高めた。

 はやぶさが成し遂げた奇跡的な偉業は、はやぶさ自身に使われた様々な技術、そしてそれを操るプログラム、また常にはやぶさと交信し指示を出していたプロジェクトスタッフ。ひとつでも欠ければ成し得なかったはずだ。

 華々しい機能や、はやぶさの成し遂げた偉業がどのような意味があるのか様々なところで語られている。ITを中心とした取材を進めているHH News & Reportsでは、はやぶさの偉業を陰から支えた「通信機能」を中心に紹介し、関連するエピソードを集めた。

はやぶさとは


 小惑星探査機「はやぶさ」の名前の由来は、小惑星へのサンプル採取が、猛禽類のはやぶさの狩猟の様に、早々に降りて、獲物を取り、あっという間に飛び立つ姿をほうふつさせることから名付けられた。

小惑星探査機「はやぶさ」

<はやぶさ概要>

名称:小惑星探査機「はやぶさ」(MUSES-C)
本体:1.5m×1.5m×1.2m
最大:5.7m(太陽パネル)
質量:510kg(うち、イオンエンジン燃料66kg、化学推進薬67kg)
打ち上げ日時:2003年5月9日
運用終了日時:2010年6月13日
目的:探査機による「工学技術実証」

・サンプルリターン技術
・4つの重要技術の実証
(1.イオンエンジンを主力とした惑星間航行、2.光学情報を用いた自律的な航法による、惑星への離着陸、3.微小重力下での天体のサンプル採取、4.カプセルを大気に投入させサンプルを回収すること)

※画像はJAXAデジタルアーカイブス提供、詳細スペックはJAXAサイトより一部改編して転載


通信に関するスペック


 通信は、はやぶさに命令を出す、あるいははやぶさが観測したデータを地球側で受け取るためにも、非常に重要な機構だ。そのため、3重の手段が採られている。天方向に取り付けられた、3種類のアンテナ…パラボナ型の「ハイゲインアンテナ」(高利徳アンテナ)、前方・後方に2か所取り付けられたホーン型の「ミディアムゲインアンテナ」(中利徳アンテナ)、ハイゲインアンテナのさらに先を含む3か所に取り付けられたパッチ型の「ロウゲインアンテナ」(低利徳アンテナ)である。


 さらにロウゲインアンテナよりも情報量が少なく、電波さえ届けばその電波のON・OFFでのみのやり取りでモールス信号のように情報交換ができる「1bit通信」も、あらかじめ用意されていた。こちらは当初、はやぶさとは別のプロジェクトである火星探査機「のぞみ」で活用されたため、予備的な位置付けで用意されていた。後述するが、はやぶさプロジェクトの復路で起こった通信途絶からの復帰において絶大な貢献を果たした。

JAXA相模原キャンパスにあるはやぶさ模型のハイゲインアンテナ。その上に備えられているのが3つあるロウゲインアンテナのひとつ
JAXA相模原キャンパスにあるはやぶさ模型のハイゲインアンテナ。その上に備えられているのが3つあるロウゲインアンテナのひとつ

 ハイゲインアンテナは3種類あるアンテナの中では最も情報量が多く、最速で8kbps程度は出るようになっている。はやぶさが装備している中では、もっとも通信速度が速い代わりにアンテナから出るペンシルビームの角度が0.3~0.5度程度と非常に狭い。そのため、ハイゲインアンテナで通信をする際には、ほかの作業を全て中断し、姿勢制御を行い地球方向に向ける必要があり、使用条件が非常に厳しい。移動中などの片手間に利用することはできず、はやぶさが撮影した画像などの科学データを、地球側にダウンロードするような場合にのみ利用されていた。JAXA宇宙科学研究所・宇宙輸送工学研究系・教授の國中均氏によると「使われていた時間は、週に2時間程度だったと思います」とのことだ。

はやぶさに取り付けられたミディアムゲインアンテナ。はやぶさの本体を挟んで対照な位置になるよう備え付けられている   はやぶさに取り付けられたミディアムゲインアンテナ。はやぶさの本体を挟んで対照な位置になるよう備え付けられている
はやぶさに取り付けられたミディアムゲインアンテナ。はやぶさの本体を挟んで対照な位置になるよう備え付けられている

 ミディアムゲインアンテナはハイゲインアンテナを挟んで前後に取り付けられたホーン型のアンテナで、2つある。通信速度は500bps程度で、ハイゲインに比べると速度は格段に落ちるが、ホーンを回転させて操作ができるため、通信が受信できる角度には40度ほどの幅がある。通常運行時は、可能な限りミディアムゲインアンテナが使われるようにしていた。

ハイゲインアンテナの先に取り付けられている「ロウゲインアンテナ」のひとつ
ハイゲインアンテナの先に取り付けられている「ロウゲインアンテナ」のひとつ

 もっとも通信が遅いパッチ型アンテナ、ロウゲインアンテナはハイゲインアンテナの先にひとつ、イオンエンジンの面にひとつ、さらにはやぶさ本体の反対面にひとつの計3つが取り付けられていた。カバーする範囲は180度にも及ぶ。ミディアムゲイン、ロウゲインは、主にHK(House Keeping)と言われる、はやぶさが安全に運用されているという連絡に利用されていた。

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