スパコン活用の展望を探る
「京」世界一の先は
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2011/9/20  1/3ページ

2011年6月、理化学研究所(以下理研)と富士通が共同で開発中のスーパーコンピュータ(以下スパコン)「京」が、演算速度で世界第1位に輝いた。「京」…そう、2009年の事業仕分けで蓮舫議員に「2位じゃダメなんでしょうか」とバッサリ切られ、それによって日本中に“科学と予算”の論争を巻き起こした、あの次世代スパコンだ。「2位じゃダメなんですよ」と言わんばかりに見事勝ち取った世界一は、日本にとって大変明るいニュースとなった。

 しかし、「京」の関係者は、勝てば官軍とばかりに事業仕分けで受けた指摘を忘れたわけではない。「10ぺタスパコンを作ることが自己目的化している」などの批判をきっかけに、「京」はより実情に見合ったスパコンを目指して再構築され、本格稼働の時を待っている。世界一になったらそこで終わりではなく、これからどう活用されていくのかが大切だ。「京」活用の展望を、事業仕分けでの指摘を踏まえて探ってみた。

「京」のこれまでとこれから


 ドイツで2011年6月に開催された国際スーパーコンピューティング会議ISC’11。整備段階の「京」が672筐体(CPU数68544個)の構成で、「LINPACK」と呼ばれるベンチマーク・プログラム*1で、世界第1位となる8.162ぺタFLOPS*2(毎秒8162兆回の浮動小数点演算数*3を達成した、と発表された。また、実行効率*4 93.0%という世界トップクラスの大規模スパコンとしては驚異的な高水準の記録を残した。この成果を励みに、開発側は2012年の完成を目指している。

ISC’11の認定式。理研の渡辺プロジェクトリーダー(中央)と富士通の佐相副社長(左)。提供:理研
ISC’11の認定式。理研の渡辺プロジェクトリーダー(中央)と富士通の佐相副社長(左)。提供:理研

 「京」は大学や企業が単独で作ったものではなく、巨額の国税が投入されたいわば“国家スパコン”だ。2005年に文部科学省主導のもとに理研が主体となってプロジェクトの検討が開始され、翌年には国家プロジェクトとなった。構築費用は2009年の段階で総額1154億円を予定し、その大半が国家予算からの支出だった。性能目標のひとつとして「LINPACK」での10ペタFLOPS達成を挙げていた。


 当初はベクトル機*5スカラ機*6からなる複合型が計画され、富士通のほかに日立製作所(以下日立)とNECも開発に参加していた。しかし2009年、NECが巨額の開発負担費用を理由にプロジェクトから事実上の撤退を表明し、NECと共同で開発に参加していた日立も撤退を余儀なくされた。理研と富士通は共同開発でスカラ型単独の世界最速システムを完成させることを決定。そしてあの事業仕分けを迎えることになる。


 事業仕分けでは、事業の見通しの甘さを指摘される形となり、一時は実質上の事業凍結が決まった。しかし、科学技術の衰退を憂うノーベル賞科学者などが、緊急声明を出して政府に猛反発する事態に発展。結果的に事業凍結は撤回され、概算要求から約40億円を減らされた約228億円が予算に計上される形で事業は継続することになった。そして完成を間近に控えた「京」は見事世界1位の座に輝き、東日本大震災で深い傷を負った日本社会に大きな希望をもたらしてくれたのだ。


 しかし、1位をとって「めでたしめでたし」で終ってしまってはおかしい。むしろ「京」が本格的に稼動し、各方面で活用されていく“これから”こそが重要だ。では「京」の転機となった事業仕分けでは、どのような課題点が指摘されていたのだろうか。


 1番多かった「2社の撤退とシステム変更によって予定通りの成果を挙げるのは難しいのだから、事業を見直すべきだ」という趣旨の発言は、世界一となった今、意味をなさない。しかし、「高度な技術に対して国民の理解をというのは、大変難しいことかもしれませんが、やはり実際どう生きていくのかが見えてこないと」(事業仕分け議事録14ページより抜粋 PDF)と指摘された『役割の見えにくさ』や、「日本のインフラ整備(中略)外国に伍して人材を輩出できる形の構想になっていない気がするんです」(同上13ページより抜粋 PDF)という『活用のためのインフラ構想の不十分さ』は、1位となった今でも検討すべき指摘だ。


スパコンは縁の下の力持ち?

 

 先に挙げた『役割の見えにくさ』は、「京」のみならずスパコン全般に言える。


 そもそもスパコンとは、「一般のコンピュータに比べて超高速演算ができる、超大型の科学計算用のコンピュータ」で、現時点では一般的なサーバ機よりも浮動小数点演算が1000倍以上速いコンピュータを指す場合が多い。実際に行うのが困難な実験や複雑な自然現象などを、その高い計算能力によってシミュレートするのが役割だ。例えば、新製品の車の衝突実験は、実際にやれば何台もの車が無駄になってしまう。そこで、データを元に膨大な量の計算をスパコンにさせることで、空気の流れや車の壊れ具合などをシミュレートし、実験数を大幅に減らすことができる。家電など身近なものから原子炉や航空機といった大きなものまで、設計段階でスパコンが果たす役割はとても大きい。また、長期的な気候変動を予測するスパコン「地球シミュレータ」に代表されるように、複雑な自然現象を解き明かし、予測することにも活用されている。

>>スパコンが社会で果たす役割

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