デジタル・ヒストリー:1976年10月31日日本 初代VHSビデオデッキ発売

デジタル・ヒストリー

1976年10月31日 初代VHSビデオデッキ発売

2014/12/1

 白黒からカラーに進化したテレビ。技術の進歩に伴って、ただ見るだけだったテレビ番組は、録画し後からゆっくり見られるコンテンツに変化した。また映画のビデオ版を購入すれば、映画館に出かけなくても、いつでも好きな時に見られるようになった。書けば、たったこれだけのことだが、私たちは無意識にパラダイムシフトを受け入れていた。

 今回は家庭用ビデオ録画再生機の事実上の統一規格となったVHSをとりあげる。

VHS年表

VTRの黎明~特許に守られたアンペックス社の4ヘッド方式~


 1956年に商品化された米国アンペックス社製のVTRは4ヘッド方式であった。直径約50mmの円盤上のドラムに4個のヘッドを90度間隔で配置、ドラムを毎秒240回転させて録画再生する仕組みであった。TVの1画面の情報を、毎秒240回転するヘッドで記録している。


 この方式では1画面を16個のセグメントに分割するため、記録ヘッドと再生ヘッドに特性差があると画面上に乱れが生じる。またテープが高速でヘッドに接触するため摩耗が激しく、約100時間でヘッドの交換が必要だった。さらにヘッドの取り付けには高い精度が要求されるため、ヘッドをブロックごと交換する必要があった。


 アンペックス社の特許政策は頑強だった。国内各社は同社の互換機路線を避け、業務用市場と家庭用を視野に入れて新しい方式のVTR研究を始めた。


ヘリカルスキャン方式


 日本ビクターは1959年10月9日、回転2ヘッドヘリカルスキャンVTRの特許を申請し、同年12月には2ヘッドVTR(KV-1)を完成させた。


 2ヘッドヘリカルスキャン方式はヘッドドラム上に180度間隔で配置した2個のヘッドで交互に記録する。このため、テープの巻き付け角は180度となった。2個のヘッドでドラムの1回転中に2コマのTV画像を記録する。この方式では画面を分割記録しないため、4ヘッド方式では不可能だった停止画面が可能になり、調整ズレなどによるバーノイズの除去までも実現した。ドラムは毎秒30回転になりヘッドドラム直径は2倍の400mm。


日本ビクターKV-600 2ヘッド放送用高性能VTR
日本ビクターKV-600 2ヘッド放送用高性能VTR

 しかし、このままではヘッドが巨大過ぎる。ここからVHSへと続く道となる。その前段階として、1969年、ソニー、松下、ビクターの提携によってVCR(Video Cartridge Recorder)開発の発表が行われた。これが「Uマチック」と呼ばれる規格である。


 1971年、ビクターはポストVCRすなわち本格的な家庭用小型ビデオの開発に入っていた。


ビクターが目指したもの


 ビクターの開発陣は「本格的な家庭用ビデオとは何か」を模索して、

1. 本体のコンパクト化
2. 収録時間は2時間

のような結論を出した。さらに、家庭用ビデオとして普及させるための条件として、ビデオ固有の条件と家庭内での条件の2つに分類し徹底的に整理した。


 一方、市販テレビとの接続について、画質・音質は放送受信と同等だった。録画時間は2時間。他機種との互換性=テープ互換性。テレビカメラを使えることをビデオ固有の条件として掲げた。


 また価格を安く、操作が容易、経費=テープ代などが安上がり、を家庭内での条件とした。


 さらに生産性が高いこと、合理化されていて機種の統合が可能なこと、サービス性がよいことをメーカー開発時の条件に追加して掲げた。


 そして社会に影響を与えるものであるため、情報文化の手段と成り得ること、という条件も掲げた。


 以上のような条件が出そろうと日本ビクターは、広範な機能(スチル、スロー、倍速再生)、高品位の画像(優れた解像度、S/Nなど)、高密度記録(ゆとりのある互換性)を開発思想の基礎に据えて設計・試作を開始した。


 各条件と現実との間にある乖離を埋めて形にするという地道な作業が始まる。そこには多くのブレークスルーが必要になる。


 条件をクリアーしたブレークスルーとしては、パラレルローディング方式によりカセットから引き出されるテープ量を最少に抑え、ドラム径62mmを実現したことが挙げられる。さらにDCモーターの採用により、ポータブル化・スローモーションなどのスピードコントロールに寄与し、従来のACモーターに比べ、消費電力軽減、回転数を自由に変化できるという利点があった。


日本ビクターHR-3300
家庭用VTRの第一号機
日本ビクターHR-3300 家庭用VTRの第一号機

 またDL-FM方式の開発によりロースピードでもテープに高密度記録が可能となり、画像のノイズを大幅に減少したことも大きい。その他、PS方式により、テープを隙間なく高密度で記録、鮮明に再生できるようになった点、BU方式により、カラーの色ムラをなくす記録方式ができた点などがブレークスルーを実現した主な要因だ。


 このような中でVHS規格を現実のものにした実機が5年の開発期間を経て完成に至った。日本ビクターは、1976年10月31日にVHS第1号機HR-3300を発売している。


家庭用VTRでVHSが多数を占めた理由とは


 以下は相前後して発表されたベータとVHSのビデオ録画再生機の簡単なスペックである。


 ソニーは1975年にベータフォーマットのSL-6300を発表した。記録方式は2ヘッドヘリカルスキャン。記録時間は当初1時間、後に2時間に改善した。


今でも家庭で使われているVTR機器
(上・下:VHSビデオデッキ、中:DVD)
今でも家庭で使われているVTR機器 (上・下:VHSビデオデッキ、中:DVD)

 使用テープは1/2インチで相対速度は6.9m/sとし、サイズが450W×400D×205H(mm)となり重さが18.5Kgだった。


 一方、日本ビクターは1976年にVHSフォーマットのHR-3300を発表している。記録方式は2ヘッドヘリカルスキャン。記録時間は当初2時間、後に4時間・6時間に改善した。使用テープは1/2インチで相対速度:5.8m/s。サイズが453W×314D×147H(mm)となり重さが13.5Kgとなった。


 両者に大きな違いは無い。あるとすれば録画時間だろう。録画時間が2時間と1時間の差は大きい。さらにVHSでは録画時間が4時間のもの、6時間のものが発売された。


 一般ユーザーは技術の中身に興味を持たない。簡単で、壊れず、長時間の録画ができるものが選ばれたにすぎない。2014年11月現在、家電量販店の店頭にはベータもVHSも並んでいない。まさに、春の夜の夢の如し、ではないだろうか。

(石丸隆雄)

注釈

*:パラレルローディング方式
テープをヘッドドラムにまきつける方式のひとつ。2本のアームでテープを引き出しドラムにセットする。機構が簡単なので小型・軽量化を促進した。