寄稿
コンピュータフォレンジック最前線
橋本 豪 外国法事務弁護士
2012/5/14  1/2ページ

【第4回】コンピュータ技術に追いつかない法整備

橋本豪氏 橋本豪氏
外国法事務弁護士。西村あさひ法律事務所所属。1964年生まれ。東京大学法学部卒業。コロンビア大学スクール・オブ・ローにて法律博士号を取得。主な業務分野は国際取引法務、クロスボーダー訴訟など。著書に『クラウド時代の法律事務』(商事法務)など。趣味はエレキギター、チェス。

近年、サイバー攻撃は凶悪化・巧妙化の一途を辿っています。また大阪地検特捜部元検事によるフロッピーディスクの改ざんに代表される、電子情報を扱った犯罪も後を絶ちません。デジタルデータの証跡を追い保全する「コンピュータフォレンジック」と、それらを証拠として認め、開示させる「eディスカバリ(電子的証拠開示)」について、外国法事務弁護士の橋本豪氏に解説していただきます。第4回はコンピュータ技術に法が追い付かない現状についてです。

IT技術の急速な進展を追いかける法律

 前回は、IT大国である米国での民事訴訟において、当事者の一方により第三者または他当事者の保管する証拠の破壊・改ざん(spoliation)が行われた場合、どのような解決が図られるのか、という点について考えてみた。その中で、現行の連邦民事訴訟規則37条(b)項(2)号のもとでの判例が、破壊・改ざんの対象となる証拠の保管者と破壊・改ざん者とが同一である、という前提の下に展開しているように見えること。一方でクラウド化、サイバー攻撃の現実化とともに、その前提が崩れてきているのではないか、ということを指摘した。今回は引き続き前回紹介した事件例について考えるところから始めたい。

1 原告Aが被告Bに対して訴えを提起した事件において、原告Aの主張にとって裁判上重要な情報を含んだ電子データを、第三者であるCがそのサーバ上に保管していた。ディスカバリにおいて、CはAからのディスカバリ請求に同意したものの、提出されたデータにおいては、上述の重要情報はCにより削除または改ざんされていた。

2 原告Aが被告Bに対して訴えを提起した事件において、被告Bにとって裁判上不利となる情報を含んだ電子データを、原告Aがそのサーバ上に保管していた。被告Bは原告Aの情報システムに侵入し、自らに不利となる情報を原告Aのサーバ上の電子データから削除、またはその情報を自らに有利になるように改ざんした。

クラウド型の証拠破壊・改ざん

 まず、例1について、これは裁判手続の当事者ではない第三者の保管する証拠が、同一の第三者の故意または過失により破壊・改ざんされた場合で、便宜上「クラウド型」と呼ぶこととする。興味深いのは、電子的証拠ではなく実際に物体として存在する証拠について、クラウド型は容易に存在しうることである。


 例えば、自動車を運転していた運転者が事故に遭い、その事故車の製造会社及び整備を行った会社を相手取って訴訟を提起した際に、その事故車がレンタカーであったため、証拠となる事故車の保管義務をレンタカー会社が負っていたにも関わらず、ディスカバリ時点までに事故車をスクラップしてしまった場合、などはこの例である。


 この場合には、判例上も「第三者による証拠の破壊・改ざん(“third party spoliation of evidence”)」という類型が認められているので、これをクラウド型に適用することはあまり抵抗がないものと思われる。そしてその適用に当たっては、連邦民事訴訟規則37条(b)項(2)号(「ディスカバリ命令に違反した当事者に対する制裁」)の文言の範囲内で、そのような判決または命令を下すこともそれほど困難を伴わないものと思われるし、必要であればその文言の若干の改正で事足りるのではないかと考えられる。

サイバー攻撃型の証拠破壊・改ざん

 一方、例2であるが、これは一方の当事者がもう一方の当事者の保管する証拠を破壊・改ざんした場合、いわば「サイバー攻撃型」といえる。米国判例調査の結果、電子証拠に関するこのような事例はこれまで見当たらず、また、物体として存在する証拠に関しても、このような例はあまりないように見受けられる。状況設定を考えれば、実はこれは納得がいく結果である。


 というのも、サイバー攻撃型の場合、明らかに害意を持ってもう一方の当事者の保管している証拠に接近、接触することが必要となる。そのため故意に証拠の破壊・改ざんを行うということになれば、民事上のみならず刑事上も責任を問われる可能性があり、いわばそのハードルが高くなっている、と考えられるであろう。そしてそのような場合、証拠の破壊・改ざんというよりは、司法妨害、不法行為といったかたちでの制裁が通常であると考えられよう。 

>>コンピュータ技術の急速な発展による変化とは?

【関連カテゴリ】

情報セキュリティ