寄稿
コンピュータフォレンジック最前線
橋本 豪 外国法事務弁護士
2012/4/9  1/2ページ

【第3回】証拠の真正性とその破棄・改ざん

橋本豪氏 橋本豪氏
外国法事務弁護士。西村あさひ法律事務所所属。1964年生まれ。東京大学法学部卒業。コロンビア大学スクール・オブ・ローにて法律博士号を取得。主な業務分野は国際取引法務、クロスボーダー訴訟など。著書に『クラウド時代の法律事務』(商事法務)など。趣味はエレキギター、チェス。

近年、サイバー攻撃は凶悪化・巧妙化の一途を辿っています。また大阪地検特捜部元検事によるフロッピーディスクの改ざんに代表される、電子情報を扱った犯罪も後を絶ちません。デジタルデータの証跡を追い保全する「コンピュータフォレンジック」と、それらを証拠として認め、開示させる「eディスカバリ(電子的証拠開示)」について、外国法事務弁護士の橋本豪氏に解説していただきます。第3回は証拠の真正性とその破棄・改ざんについてです。

民事訴訟手続と証拠の真正性

 前回は、法律、特に民事訴訟手続に関するルールが初めて正面からコンピュータ技術に取り組んだ例として、米国連邦民事訴訟規則のもとでのeディスカバリについて、駆け足でみてみた。そこでは「民事訴訟のルールが高度化するコンピュータ技術への対処を迫られていること」「クラウド化やサイバー攻撃の日常化にともない、民事訴訟規則の側の対応は遅れがちと考えられること」などを指摘した。今回は、その中でもフォレンジックの出番ともいえる、データの破棄・改ざん(spoliation)について考えてみたい。


 訴訟手続においては、民事・刑事にかかわらず、証拠の真正性の担保は訴訟手続の正当性の根幹を成すものだ。すなわち、訴訟手続の結果下される判決というものは、究極的には「国家権力によって執行されるもの」であり、それを正当にするものは、客観的事実に基づく「真正な証拠」となる。少なくとも民主主義的制度をその基盤として運営する諸国家では裁判制度の基本原則だといえる。


 それでは、われわれが“裁判制度の当然の前提”として考えている、「証拠の真正性」が脅かされる事態が生じるとしたらどうか。そのような状況に対処するための第一歩が、前回述べた連邦民事訴訟規則37条(b)項(2)号であると筆者は考えている。

Spoliationとは

 まず、Spoliation (データの破棄・改ざん)とは何を指すのだろうか。連邦民事訴訟規則はその第37条(b)項(2)号では、「ディスカバリ命令に違反した当事者に対する制裁」を規定する。そして「データの破棄・改ざん」を行った当事者の制裁は当該規定によるとディスカバリ命令違反として考えられているということになる。

スイスUBS銀行の元社員(女性)のローラ・ズブレイク氏(原告)が2900万ドルの賠償金を勝ち取った性的差別に関する訴訟。

この訴訟で同氏は銀行内でのやりとりを全て会社側に提出するように求めた。それに対してUBS側は350ページの文章を提出したものの、原告側にバックアップデータからの開示を求められたeメールを発見できず、一部のeメールは破棄されていた。

そのため、2004年に裁判所はUBS側に「証拠の破棄」とみなし、UBS側に法的制裁が科された。

 さらに、「データの破棄・改ざん」の内容については、有名なZubulake (ズブレイク)事件(上記参照)での裁判所命令がそれについて、「証拠の破壊または重大な改変があった場合、または訴訟において他の当事者が当該資産を証拠として使用するために保全しなかった場合」(※)のことを指す、としている。

(※)の原文
 “the destruction or significant alteration of evidence, or the failure to preserve property for another’s use as evidence in pending or reasonably foreseeable litigation”(強調は筆者)
Zubulake v. UBS Warburg LLC, 229 F.R.D. 422, 430 (S.D.N.Y.2004)

 なお、以降は、「資産」という言葉を、その一例としての「データ」と読み換えて議論を進めたい。

>>証拠の破棄と「故意」「過失」とは?

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