寄稿
コンピュータフォレンジック最前線
橋本 豪 外国法事務弁護士
2012/3/12  1/2ページ

【第2回】米国にみるeディスカバリの必要性

橋本豪氏 橋本豪氏
外国法事務弁護士。西村あさひ法律事務所所属。1964年生まれ。東京大学法学部卒業。コロンビア大学スクール・オブ・ローにて法律博士号を取得。主な業務分野は国際取引法務、クロスボーダー訴訟など。著書に『クラウド時代の法律事務』(商事法務)など。趣味はエレキギター、チェス。

近年、サイバー攻撃は凶悪化・巧妙化の一途を辿っています。また大阪地検特捜部元検事によるフロッピーディスクの改ざんに代表される、電子情報を扱った犯罪も後を絶ちません。デジタルデータの証跡を追い保全する「コンピュータフォレンジック」と、それらを証拠として認め、開示させる「eディスカバリ(電子的証拠開示)」について、外国法事務弁護士の橋本豪氏に解説していただきます。第2回は米国の民事訴訟におけるeディスカバリについてです。

法律(家)と電子情報

 今回は、法律と情報技術、コンピュータ技術とが本格的に交錯した最初の例とも言える、米国におけるeディスカバリ*1に関して見ていきたい。


 法律家とは、法律を根拠に言葉を駆使して相手方を説得することを生業とするもの、といったら単純化しすぎであろうか。いずれにせよ法律家が、言葉をいわば「商売道具」として仕事を行うことは疑いないことであると思われるが、その結果として、弁護士を志望するものは「文科系」の学生が多く、最近まで、技術的な面については弁護士側の対応は遅れがちであったといえなくもない。


 しかし、技術の急速な発展により、近年法律家にとっても、電子情報をどのように裁判手続において取り扱っていくか、ということが喫緊の課題となってきている。具体的には、爆発的に増大する電子情報、電子文書によって、裁判上の証拠の大半が占められてきている現状において、訴訟経済的な観点から「いかに電子証拠を裁判手続において効率的に処理していくか」ということがeディスカバリに関する諸規則の根本にある問題意識だといってもよいであろう。ここで、実際にeディスカバリ関連の民事訴訟規則が米国連邦レベルで施行された背景としては、情報技術の発展と米国におけるディスカバリの特徴とがその背景となっていると考えられる。

背景 ― ディスカバリの特徴

 米国訴訟手続におけるディスカバリは、しばしば「証拠開示手続」と訳されるが、「これは若干不正確な訳ではないか?」と筆者は考えている。というのも、米国連邦民事訴訟規則においては、ディスカバリの対象は、概ね

  1. 弁護士と依頼者との間の秘匿特権の対象とはならない、当該訴訟に関する当事者の主張に関連するすべての事項を含み
  2. 事実審理において証拠として採用することができないものでもよく
  3. 裁判上の証拠となり得る事項を発見することに資する、と合理的に計算された上でディスカバリが請求されたと見えるものであればよい

 と規定されているからである。

日本と米国の民事訴訟の流れ 出典:『実践的eディスカバリ』NTT出版
(クリックすると拡大します)
日本と米国の民事訴訟の流れ 出典:『実践的eディスカバリ』NTT出版 (クリックすると拡大します)

 すなわち、ディスカバリの対象は、単に事実審理において証拠として採用され得る文書、事物、情報その他の事項に限られることはなく、その限りにおいて、ディスカバリは「証拠」開示手続に留まらないこととなる。その結果として、ディスカバリは当該訴訟に関連性のある(“relevant”)であるものを広くカバーするのであり、その範囲が当事者間の合意をベースに訴訟ごとに確定されていくため、結果としてそもそもディスカバリの対象となる情報の範囲が膨大になる、というのが米国の訴訟手続の特徴の1つといえる。

>>情報技術の発展による状況の変化とは?

【関連カテゴリ】

情報セキュリティ