寄稿 よくわかる品質コストマネージメント 伊藤嘉博 早稲田大学教授
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2011/3/22  1/2ページ

【第1回】いまなぜ品質コストなのか 

伊藤嘉博氏 伊藤嘉博氏
早稲田大学商学学術院教授 。博士(商学)。1953年生まれ。1981年早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程修了。成蹊大学、神戸大学大学院教授などを経て2005年より現職。趣味はオールドトイと時計のコレクション、旅行。

有識者からご寄稿いただくこのコーナー。第1弾は早稲田大学商学学術院教授の伊藤嘉博氏の「よくわかる品質コストマネジメント」を3回にわけてお届けします。第1回は品質コストマネジメントについて事例を用いて解説していただきます。

増え続ける重大事故

 トヨタの品質問題をきっかけに、世界中で日本の工業製品の品質に対する信頼が揺らいでいる。ひとえにトヨタだけの問題ではない。重大事故には至らないものの、他の自動車各社のリコール件数もここ数年総じて増加傾向にある。


 さらには、わが国企業の品質管理・品質保証体制の不備を懸念させる製品事故も相次いでいる。パロマ工業による一酸化炭素中毒事故は記憶に新しいところだが、これを契機に重大製品事故報告・公表制度もスタートした。ここでいう重大事故とは、死亡、全治30日以上の重傷、後遺障害、一酸化炭素中毒、および火災を意味する。


 経産省によると、事業者から報告された製品の重大事故は2007年に1190件、2008年には1412件にも昇る。しかも、報告からリコールまでの日数も平均で57日もかかっており、メーカー側の対応の遅れが指摘されている。その根底にあるのはコストの壁だ。もちろん、コストを惜しんだばかりに後々不良品が市場に大量に出回れば、回収コストの負担などで膨大な損失が出ることは経営者も十分承知している。<


 それでも、景気低迷が長引くなか、日本企業の生命線ともいえる品質管理・品質保証にも容赦なく予算カットの波が押し寄せ、いわばなりふり構わぬコストダウンが横行しているのも事実である。

品質コスト改善の優位性

 そんな日本をあざ笑うかのように、欧米の工業製品の品質にはここ数年劇的な改善傾向が認められる。これに、韓国ほかアジア勢が猛追する勢いを見せている。もともとコスト面での優位さがあることに加えて、品質面でも日本との格差がほとんど見られなくなりつつあるとすれば、アジアの新興メーカーの快進撃は日本にとって今後大きな脅威となるのは必至だ。


 これを象徴するのが、米調査会社J・D・パワー・アンド・アソシエイツが毎年発表している初期品質調査(Initial Quality Study:IQS)である。この調査は、各自動車メーカーの新車100台当たりの不具合指摘件数(PP)を比較したもので、米国の消費者が新車購入時に最も重視する指標の1つといわれている。

図1、米国における各国ブランド車の新車100台あたりの不具合指摘件数の推移(J・D・パワー・アンド・アソシエイツのプレスリリースをもとに作成)
図1、米国における各国ブランド車の新車100台あたりの不具合指摘件数の推移(J・D・パワー・アンド・アソシエイツのプレスリリースをもとに作成)

 近年のIQSでは、ポルシェとフォードの躍進にまず驚かされるが、韓国の現代自動車の健闘ぶりにも目を見張るものがある。実は、同社の不具合指摘件数は2003年には143件で業界平均(133)を大きく上回っていた。ところが、翌2004年に102件と改善されると、2007年に一時悪化はしたものの、その後は安定した品質を維持し、2009年にはホンダを抜いて、ベストテンの4位にまで食い込んだ。

>>日本のメーカーが正念場を切り抜けるための手段とは…。

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