Bookshelf ~今月の本

『舟を編む』

舟を編む_著:三浦しをん

著:三浦しをん
光文社

\1575/266ページ
発売日:2011年9月20日

2012/5/31

言葉の魅力に取り憑かれた“辞書”編集部の奮闘を描く大河小説


 同音異語というものがある。


 同じ発音でありながら全く違う意味を持つ言葉。「ちかい」と発音する場合、“近い”か“誓い”か“地階”か、では当然意味が違う。さらに「近い」といっても距離が近いのか、時期が近いのか、目が近いのかでもやはり持つ意味が異なってくる。

 2012年に本屋大賞を受賞した『舟を編む』は、そんな言葉の深み・不可思議さの虜になってしまった玄武書房辞書編集部の面々が、日々言葉と格闘しながら1つの国語辞書「大渡海」を作り上げる過程を追った小説だ。

 物語は、定年を目前とした玄武書房の辞書編集員・荒木が、営業部に所属する“かなり変わった”馬締(まじめ)に辞書編集の才能を見出すところから始まる。その馬締を軸に、編集部を暖かく見守る松本先生、少し“チャラ”いが熱い心を持つ同じ辞書編集部の西岡、美人料理人・香具矢などとの人間模様が語られながら、10年以上の月日を費やして「大渡海」は徐々に完成していく…。

 一部、地の文の人称が混じっていて、若干わかりづらい(第三者視点で「馬締」と書くか、本人視点で「俺」と書くか)など、小説としてはやや荒削りな箇所が見受けられるのが、玉にキズか。しかし、登場人物たちが辞書編集にかける熱い情熱が、そのような細かい点が気にならないほど物語を勢いのあるものに仕上げている。

 少し時間があるときを見計らって、一気に読んでみて欲しい。

(井上宇紀)