Bookshelf ~今月の本

『あんぽん』

あんぽん_著:佐野眞一

著:佐野眞一
小学館

\1680/399ページ
発売日:2012年1月10日

2012/5/17

ソフトバンク創業者・孫正義氏の血縁関係に鋭く迫る一冊


 ソフトバンク創業者でありIT業界の旗手として脚光を浴びる孫正義氏。彼について書かれた書物は数多くあるが、彼の血縁関係やルーツにまで迫った本はない。ノンフィクション作家の佐野眞一氏が著した『あんぽん』はいずれの本も踏み込んでこなかった彼の血縁関係にまで迫った一冊だ。

 孫正義氏は在日三世である。本のタイトル「あんぽん」は彼の学生時代の名字「安本」に由来する。佐賀県鳥栖市鳥栖町で生を受け、在日韓国人が生活する場所にあったバラックで育った。孫一族が養豚と密造酒造りで生計を立てるなか、孫氏は豚の糞尿が流れる掘立小屋のなかで膝まで水につかりながら必死に勉強したという。

 その後、孫氏は福岡県の進学校・久留米大附設高校を退学し、単身で米国に渡る。その時の仕送りに奔走したのは父・三憲氏。孫氏は三憲氏にその素質を見出され、三憲氏がパチンコ店を経営し、財をなしていくのを間近で見るなど多大な影響を受けている。

 父親をはじめ本書で異彩を放っているのは、強烈な個性を持つ孫氏の親族だ。例えば、祖母の李元照氏は家で飼っている豚の残飯を、リアカーで鳥栖の食堂から回収してまわる。リアカーに孫氏を乗せて、一店一店地道に店をまわるその様子からは、切実さと力強さを感じる事ができる。

 また孫氏の母・清子氏の弟である武雄氏の存在も目を引く。武雄氏は大阪の元極道で、今は東京で不動産の仕事を営んでいる。「仲の悪い三憲氏を舎弟に命令して川へ落とした」「炭鉱で亡くなった孫氏のおじ・徳田氏の亡骸を炭鉱の中までもぐって引き上げてきた」という彼の発言は、読み進んでいくうちに嘘とも本当ともつかないことがわかるが、清子氏や孫氏を気にかけるなど、どこか憎めない魅力が伝わってくる。

 そして孫氏の父・三憲氏。女癖・酒癖の悪さなどがあるものの、孫氏のビジネスについては幾多の助言を行っている。太陽光発電という新規ビジネスに参入する孫氏の行く末を案ずるその姿は、孫氏が父にとってかけがえのない存在であることがわかる。

 孫氏の知られざる生い立ちと、彼を取り巻く強烈な個性をもつ親戚…。そのルーツを祖父・曾祖父の母国である韓国にまで足を運び詳細に調べ上げる著書・佐野眞一氏の手腕には脱帽させられる。著者によって孫氏と孫氏を取り巻く人々の人間模様が鮮明に記述されており、非常に読み応えのあるノンフィクションとなっている。是非一読をおすすめしたい。

(山下雄太郎)