Bookshelf ~今月の本

『凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩』

凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩_著:皆川典久

著:皆川典久
洋泉社

\2310/212ページ
発売日:2012年2月15日

2012/5/10

東京を“ゆっくり”楽しむ「スリバチ」散歩指南書


 「東京」は、人口が多く、電車網が世界屈指と言うほどに行きわたっており、多くのビジネスマンが行きかう「忙しい街」という印象が強い。そのためか“東京で歩く”という行為は、電車で移動した駅と駅の間、最後の余りを詰めるものでしかない。しかしひとたび、足元に目を向けてみれば、その複雑な地形と複雑さが示す意味に歴史を感じることができる。

 本書は、そんな東京という土地の特徴――複雑な川などが長年の歴史で作り上げてきた起伏に富む地形――に注目している。特に「V字ではなくU字状で、ちょうどプリンをスプーンですくった時にできる窪みに似ている」(本書3ページより引用)という東京の独特な形状の谷を「スリバチ」と名付けて、15か所の「スリバチ」とともにその地形・土地の魅力を紹介している。

 例えば、文京区の白山通り、千川通り、本郷通りを中心としたスリバチ「本郷」では、かつて罪人を見送っていた「見送り坂」、菊畑や菊職人が多くいた「菊坂」といった地名の由来から、窪地である「三四郎池」、坂の途中にあり弥生土器が発見された「弥生2丁目遺跡」などなど…。それぞれの由来から土地に構造についてまで、とにかく歩きながらでないとなかなか味わえない、坂や窪地にこだわりぬいた案内となっている。

 「坂を登るのが面倒くさい」程度に思って、懸命に歩いていた坂道も、その由来や、悠久の歴史に思いを馳せてみれば少しは登ることが楽しくなるかもしれない。東京で働いている方は、明日から1駅前で降りて東京の地形を歩きながら楽しんでみてはいかがだろうか?

(井上宇紀)