Bookshelf ~今月の本

『地下鉄は誰のものか』

地下鉄は誰のものか_著:猪瀬直樹

著:猪瀬直樹
ちくま新書

\777/224ページ
発売日:2011年2月7日

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2011/10/6

当事者の立場から都内の地下鉄一元化問題に鋭く切り込む


 「東京メトロより運賃や定期代が高い」「乗り換え先が同じ都営地下鉄だったら安く行けるのに」――。記者を含め、都営地下鉄沿線で暮らした経験のある人の多くが抱いたことがある不満だろう。そもそも国内他都市の地下鉄経営は1主体なのに、東京都内だけ2主体あり運賃体系が異なるのも不思議だった。

 同書では、同様の疑問を持つ都副知事の猪瀬直樹氏が東京メトロと都営地下鉄の経営統合の必要性を訴え、一筋縄ではいかないメトロ側との交渉のやり取りを描く。経営の一元化が実現すれば、運賃の均一化や改札の共通化などが実現して利便性が大きく向上し、混雑の平準化も望めるという。

 「都営地下鉄の長期債務が巨額で一元化は進めにくい」といった一般論に対しては、詳細な財務資料を基に「すでに経営の黒字化は達成され、返済の目途も立っている」と反論。単独での完全民営化を目指すメトロ側に対しては「不動産経営に乗り出すなど利用者へ利益を還元する意識が薄い」などと批判を加える。さらに戦前戦後の地下鉄建設の歴史にまでさかのぼり、地下鉄経営の特殊性や一元化の正当性を論じる。

 都の当事者からの意見であるため、メトロ側の主張が見えにくい点は仕方がない。だが、少なくとも「地下鉄は利用者のもの」という著者の信念は間違いではないだろう。

(薬師寺敏雄)