Bookshelf ~今月の本

『天空の蜂』

 

天空の蜂_著:東野圭吾

著:東野圭吾
講談社文庫

\880/634ページ
発売日:1998年11月15日

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2011/9/29

原発を巡る人間模様が興味深い傑作サスペンス


 爆薬を積んだ最新鋭の大型ヘリが奪われ、無人操縦で原発の上空へ。「日本中の原発の稼働を即刻止めなければ、ヘリを落とす」と、“天空の蜂”を名乗る犯人は日本政府を脅迫する。さらにヘリには子供が1人閉じ込められていた。政府が下す苦渋の決断とは――。

 テロリストと政府の駆け引きや、犯人探しや子供救出へ奔走する人々の息遣いが生々しく伝わり、緊迫感あふれるタッチで物語は展開する。綿密で計算され尽くした舞台設定がリアリティを感じさせ、ドキリとさせられる。そして、より注目すべきは原発を巡る様々な人間模様だ。

 ヘリの標的になった原発の関係者や技術者。現場作業員。原発政策を推進する政府。原発反対派。そして電力を享受する市民。テロの危機に直面することで、いろいろな立場の考え方が浮き彫りになる。本作が単行本で刊行されたのは1995年だが、東日本大震災による原発事故を巡る動きと重なるような描写もみられ、非常に興味深い。

 文庫版の帯に「一番思い入れの強い作品を訊かれたら、これと答えるだろう」という東野圭吾氏の言葉がある本作。フィクションではあるが、原発についてとても考えさせられる。

(薬師寺敏雄)